玉城肇

玉城 肇とは

玉城 肇（たまき はじめ、1902年11月25日 - 1980年1月11日）は、日本の学術界において、経済史研究、特に家族史研究の分野で顕著な功績を残した研究者です。その専門領域は多岐にわたり、日本社会の構造、経済の歴史的変遷、教育史、女性史など、幅広いテーマについて深い洞察に基づいた研究を展開しました。

生涯と経歴

宮城県に生まれた玉城氏は、旧制第二高等学校を経て東北帝国大学経済学科を卒業しました。大学で経済学の基礎を修めた後、研究者としてのキャリアをスタートさせ、東北学院大学で教鞭をとりました。その後、愛知大学に移り、法経学部の教授として長年にわたり教育・研究に尽力しました。特に愛知大学においては、第6代学長という重責を担い、学園の発展と学術研究の振興に多大な貢献をしました。

研究活動と業績

玉城氏の学問的活動の中心は、日本の社会構造、とりわけ家族制度の歴史と経済史の関連性にありました。資本制経済の発達が伝統的な「家」の構造や機能に与えた影響を、歴史的・社会的な視点から詳細に分析しました。

家族史研究

氏の研究を象徴する業績の一つに、1957年に発表した主著『近代日本における家族構造』があります。この研究は、日本の近代化過程における家族制度の変容を克明に描き出し、この功績により関西学院大学から文学博士の学位を授与されました。家族制度が単なるプライベートな領域にとどまらず、社会構造や経済システムと密接に関わる公的な要素を持つことを明らかにしたその視点は、その後の家族史研究に大きな影響を与えました。また、『日本家族制度批判』や『家族論』、『日本家族制度の批判 半封建的家族制度の本質』といった著作でも、日本の「家」制度の特質とその問題点を鋭く指摘しています。

経済史・社会史研究

経済史分野では、『日本資本主義発達史講座』や、地域産業史に関する研究（例：『愛知県毛織物史』、『遠州織物発達史』、『豊橋地方における特殊産業の由来』）を通じて、日本の経済がたどった歴史を多角的に分析しました。『日本財閥史』では、日本の経済を動かしてきた財閥の成り立ちとその構造を深く掘り下げています。さらに、『やさしい日本社会史』や『日本歴史』といった著作では、一般読者にも分かりやすく日本の社会や歴史の概略を解説しています。

その他の研究分野

玉城氏の研究対象はこれにとどまらず、教育史（『明治教育史』、『近代日本教育史』、『学校と教師の歴史』）、女性史（『日本女性史』、『世界女性史』、『フェミニズムの歴史』）、思想史など、非常に広範に及びました。これは、日本社会全体の構造や歴史を理解するためには、特定の分野に限定せず、様々な側面からアプローチする必要があるという氏の信念を示しています。また、クープスカヤ（レーニン夫人）の生涯を描いた伝記的な著作なども手がけ、人物研究にも関心を示しました。

著作活動と翻訳

玉城氏は研究成果を多数の著作として発表しました。単著だけでなく、共著や編著としても多くの書籍に関わっています。例えば、『新しい結婚讀本』では、当時の社会情勢に即した新しい結婚観について論じ、『明解西洋思想家辞典』を編纂するなど、啓蒙的な活動も行いました。

また、海外の重要な文献の翻訳も積極的に行いました。マルクスの著作の一部を翻訳したほか、イーリンによる『書物の歴史』、オスワルドの『西洋印刷文化史』といった文化史に関するもの、さらには、ペルリ提督やタウンゼンド・ハリスの日本滞在記といった、日本の開国期に関する貴重な記録の翻訳にも携わりました。これらの翻訳活動は、日本の学術界や文化界に海外の知見を導入する上で重要な役割を果たしました。

受賞と家族

1960年には、長年の研究活動とその功績が認められ、中日文化賞を受賞しました。

玉城氏の家族にも、学問や文化の分野で活躍した人物が多くいます。長男の徹氏は歌人として知られ、次男の哲氏は農業経済学者として専修大学で教鞭をとりました。三男の素氏は現代コリア研究所の理事長を務めています。また、著名な歌人である花山多佳子氏は玉城氏の孫にあたり、多佳子氏の娘である花山周子氏（歌人）は曾孫にあたります。このように、玉城氏の家系は学術や芸術の分野と深いつながりを持っていました。

まとめ

玉城肇は、経済学と歴史学を横断する独創的な視点から、近代日本社会の根幹をなす家族制度と経済構造の関係性を深く探求しました。その研究は、単に過去を解明するだけでなく、現代日本社会が抱える課題を理解するための重要な示唆に富んでいます。広範な著作と翻訳活動を通じて、学界のみならず広く社会に対しても大きな影響を与えた、日本の学術史における重要な人物の一人です。

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