玉掛作業者

玉掛作業者とは

「玉掛作業者（たまかけさぎょうしゃ）」は、建設現場や工場などでクレーンやデリック、移動式クレーン、揚貨装置といった機械を用いて荷物を安全に吊り上げる作業、すなわち「玉掛け作業」を行うために法的に定められた資格を持つ作業者を指します。労働安全衛生法第61条および第76条に基づき、厚生労働大臣が定める玉掛け技能講習または玉掛け特別教育を修了した者でなければ、この作業に従事することはできません。

玉掛け作業の範囲

玉掛け作業とは、単に荷をフックにかけることだけを指すのではありません。具体的には、ロープやワイヤー、スリングなどの専用の用具を用いて、吊り上げる荷物に適した方法で準備を行うことから始まり、合図に基づいて荷を吊り上げ、目的の場所へ移動させ、最終的にフックから安全に荷を外す（玉はずし）までの一連の工程全てを包含します（ただし、コンクリートバケットのように荷と一体となったものをフックに直接掛ける場合などを除く）。特に、吊るす作業だけでなく、別の場所で荷をフックから外す作業にも同等の資格が必要です。複数の作業員が同時に異なる場所で玉掛け作業を行う場合、それぞれの作業場所ごとに有資格者が必要となります。

ただし、有資格者の直接の指導・監督のもとで、補助的な業務（例：合図を行う、玉掛用具の準備・片付けをするなど）を行う場合は、必ずしも資格は必要とされません。このような補助業務に一定期間従事した経験がある場合、将来的に玉掛け技能講習を受講する際に、講習時間の一部が免除されるといった優遇措置が設けられています。しかし、補助的な作業員のみで玉掛け作業全体を行うことは認められていません。

資格の区分

玉掛け作業に関する資格は、使用するクレーン等の「吊り上げ荷重」によって二つの区分に分けられます。

玉掛け技能講習：吊り上げ荷重が1トン以上のものを含む、全ての種類のクレーン、デリック、移動式クレーン、揚貨装置を用いた玉掛け作業を行うことができます。
玉掛け特別教育：吊り上げ荷重が1トン未満のクレーン、デリック、移動式クレーン、揚貨装置を用いた玉掛け作業に限定されます。

重要なのは、この区分の基準が「吊り上げる荷物の重さ」ではなく、「使用するクレーン等の最大吊り上げ能力」である点です。例えば、実際の荷物が100キログラムと軽くても、使用するクレーンが吊り上げ荷重2.8トンの能力を持つ場合は、玉掛け技能講習の修了が必要となります。

クレーン運転資格との関連

玉掛け資格は、クレーン等の運転資格とは独立して存在します。これは、特にタワークレーンのように運転席が高所や遠隔地にあり、運転士と玉掛け作業を行う場所が離れている場合、同一人物が両方の作業を同時に行うことが現実的でないためです。事業主は、クレーン等を運転する作業と玉掛け作業を同時に行わせる際には、原則として、クレーン・デリック運転士や移動式クレーン運転士などの運転資格と、玉掛け資格の両方を持つ者に作業させなければなりません。しかし、現実の作業現場では、鉄筋工や鳶職など、クレーン等の運転資格を持たずに玉掛け作業のみを専門的に日常行う作業者も多く存在します。

資格取得の方法

玉掛け技能講習および玉掛け特別教育の受講資格には、法令上の制限は特にありません。ただし、労働基準法により満18歳未満の者は危険有害業務である玉掛け作業に就くことができないため、一部の教習機関では受講に年齢制限を設けている場合もあります。

玉掛け技能講習：都道府県労働局長に登録された教習機関で実施されます。講習科目や時間数は、玉掛け技能講習規程（昭和47年労働省告示第119号）に基づき定められています。原則的な講習時間は学科7時間、実技12時間の合計19時間ですが、既にクレーン等関連の運転免許や技能講習を修了している場合、あるいは一定期間の実務経験がある場合は、一部科目が免除され、講習時間が短縮されます（最短15時間）。学科では、クレーン等に関する知識、玉掛けに必要な力学、具体的な玉掛け方法、関係法令を学びます。実技では、実際の玉掛け作業の基本や、クレーン等運転のための合図方法などを習得します。講習の最後には、学科試験と実技試験が実施され、両方に合格することで玉掛け技能講習修了証が交付されます。

玉掛け特別教育：各事業所内や登録教習機関で実施されます。クレーン取扱い業務特別教育規程（昭和47年労働省告示第118号）で定められた履修時間は、学科5時間、実技4時間の合計9時間以上です。講習内容は技能講習と同様に、学科（知識、力学、方法、法令）と実技（玉掛け、合図）から構成されます。

これらとは別に、既に業務に就いている者を対象とした安全衛生教育も実施されることがあり、玉掛用具の最新情報や適切な取り扱い、保守管理、過去の災害事例などについて学ぶ機会が設けられています。

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