王殺し

王殺し：君主殺害の歴史と社会背景

王殺しとは、政治的、宗教的な理由により君主を殺害する行為、あるいはその加害者を指します。英語のregicide（レジサイド）は、ラテン語のrex（王）とcide（殺害）から成る合成語です。忠義に反する行為であるため、道徳的な非難を伴い、国王弑逆、あるいは単に弑逆とも呼ばれます。ただし、王位継承争いにおける殺害や、戦争における戦死などは、この定義には含まれません。禅譲や追放なども同様です。

ヨーロッパにおける王殺し

古代ヨーロッパにおいては、王が宇宙秩序を司る存在とされ、その能力を失った王を殺害することで秩序を回復させるという神秘主義的な考え方があったとされる説があります。ジェームズ・フレイザーの『金枝篇』にある「森の王」の例が有名です。

しかし、中世封建社会以降、王権神授説が台頭すると、王殺しは道義的、宗教的に最大のタブーとされました。王殺しの企ては、極めて残酷な拷問と処刑の対象となりました。フランスのブルボン朝では、王の暗殺未遂犯に八つ裂きの刑が科せられました。

革命期における王殺し

市民革命期になると、宗教的束縛の弱まりと市民意識の高まりにより、王殺しは旧体制打倒の象徴として用いられるようになりました。

イギリスの清教徒革命では、チャールズ1世が処刑され、共和政が成立しました。しかし、王政復古後は、処刑に関わった者への報復が行われました。フランス革命でも、ルイ16世が処刑されました。ナポレオン1世は、暗殺の脅威から、自ら弑逆罪を制定しました。王政復古後も、王殺しは重大犯罪として法制化される例が多く見られます。大日本帝国の旧刑法にある大逆罪もその一つです。

アジアにおける王殺し

中国

中国では、皇帝殺害は王朝交代と捉えられてきました。儒家思想では、徳の失墜を理由とした王朝交代も認められていました。

日本

日本では、天皇家は万世一系とされてきました（ただし、上古・神代の歴史については、歴史学的な裏付けが乏しく、議論の余地があります）。

蘇我馬子は、崇峻天皇を暗殺したとされています。政治的対立が背景にあったとされますが、歴史学者佐藤長門は、多数の皇族・群臣の同意を得た宮廷クーデターの可能性も指摘しています。淳仁天皇や孝明天皇の死についても、暗殺の疑いが指摘されていますが、確定していません。

まとめ

王殺しは、時代や社会背景によって異なる意味合いを持ちました。古代の神秘主義的な概念から、革命期の象徴的行為、そして重大犯罪へと、その評価は変遷してきました。それぞれの時代の政治状況や社会構造、宗教観などを踏まえた上で、その歴史的背景を理解することが重要です。また、王殺しという行為が、その後の社会に与えた影響も多岐に渡り、歴史を語る上で欠かせない重要な要素となっています。

注記: 本稿では、皇太子や将軍など、君主以外の権力者の殺害は含んでいません。また、歴史的事実と解釈には、様々な見解があることをご了承ください。

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