王澍 (建築家)

王澍（ワン・シュウ）は、1963年生まれの中国の建築家です。彼は、杭州市を拠点とし、中国美術学院で建築芸術学院の院長を務めています。2012年には、建築界のノーベル賞とも称されるプリツカー賞を、中国本土の国民として初めて受賞し、国際的な注目を集めました。

生い立ちとキャリア

王澍は、新疆ウイグル自治区のウルムチで生まれました。幼少期から絵を描くことに情熱を燃やしていましたが、両親の意向もあり、建築家としてのキャリアを歩み始めます。南京工学院（現在の東南大学）で建築を学び、1985年に卒業。その後、同大学院で修士号を取得しますが、修士論文の内容は物議を醸し、学位授与には紆余曲折がありました。大学院修了後、王澍は杭州市に移り住み、浙江美術学院（現在の中国美術学院）で古い建築の修復や環境と建築の関係についての研究に従事しました。1990年には最初の建築作品である青少年センターを完成させますが、その後は研究に専念し、2000年に同済大学で博士号を取得。同年、中国美術学院の教授となり、2007年には建築芸術学院の院長に就任しました。

アマチュア建築スタジオ

1997年、王澍は妻である陸文宇（ルー・ウェンユー）と共に、建築事務所「業餘建築工作室」（アマチュア建築スタジオ）を設立しました。この事務所名は、当時の中国における都市開発のあり方、特に古い街並みの破壊とそれに対する「プロの建築家」への批判を込めたものでした。彼は、伝統的な建築技術と現代的なデザインを融合させることに情熱を注ぎ、持続可能な建築の実現を目指しています。

主要な作品と評価

王澍の代表作としては、蘇州大学文正学院図書館（2000年）、寧波美術館（2005年）、中国美術学院象山新校区（2004年-2007年）、寧波博物館（2008年）などがあります。特に寧波博物館は、明代や清代のレンガを再利用したファサードや竹で補強したコンクリートを使用するなど、地域の特色と廃材の再利用を巧みに取り入れた作品として知られています。また、そのデザインは、近くの山並みや水面との調和を意識しており、寧波市の風土を反映しています。王澍の建築は、場所の記憶や文脈を重視し、中国における批判的地域主義の建築の代表例と評されています。彼の作品は、中国国内だけでなく、国際的にも高く評価されており、2010年にはドイツのエーリッヒ・シェリング建築賞、2011年にはフランス建築アカデミーのゴールドメダルを受賞しました。そして、2012年には、プリツカー賞を中国人として初めて受賞し、その功績が世界的に認められました。プリツカー賞の審査員は、王澍の作品を「時間を超越し、文脈に深く根ざし、それでいて普遍的」と称賛しています。

私生活と家族

王澍の父は音楽家で、アマチュアの大工でもありました。母は教師で、学校図書館の司書でした。彼の妻である陸文宇は、建築家であり、事務所のパートナーであるとともに、中国美術学院の建築の教授でもあります。王澍は、プリツカー賞の受賞に際し、陸文宇こそが賞を分かち合うにふさわしい人物であると述べています。

その他の活動

王澍は、建築家としての活動以外にも、教育者として多くの学生を指導しています。また、ヴェネツィア・ビエンナーレなどの国際的な建築展にも積極的に参加し、自身の建築理念を発信しています。彼の建築は、中国の伝統と現代的な感性を融合させたものであり、世界中の建築家や学生に大きな影響を与えています。

主な作品

2000年 蘇州大学文正学院図書館
2005年 寧波美術館
2004年 中国美術学院象山新校区一期工程（二期工程は2007年に落成）
2005年 寧波五散房
2006年 金華建築芸術公園「瓷屋」茶室
2006年 瓦園（ヴェネツィア建築ビエンナーレ中国館）
2007年 杭州「銭江時代-垂直院宅」
2008年 寧波博物館
2009年 杭州南宋御街博物館
2010年 上海万博・寧波滕頭館
2010年 衰朽的穹隆（The decay of Dome，ヴェネツィア建築ビエンナーレ参加作品）
2014年 杭州水岸山居酒店
2015年 艾青紀念館新館
2018年 臨安博物館

王澍の建築は、単なる建物の設計にとどまらず、地域文化や環境との調和を重視した、持続可能な建築のあり方を示唆しています。彼の作品は、今後も多くの建築家や都市計画に携わる人々に影響を与え続けるでしょう。

もう一度検索