玖老勢駅

玖老勢駅

玖老勢駅（くろぜえき）は、愛知県新城市玖老勢に設けられていた、かつての豊橋鉄道田口線の駅です。かつて南設楽郡鳳来寺村に属し、田口線の主要駅の一つとして機能しました。

歴史

この駅は、田口鉄道によって1929年（昭和4年）5月22日に開業しました。田口鉄道は、現在のJR飯田線本長篠駅から北設楽郡設楽町を結んでいた路線です。玖老勢駅は、田口鉄道が最初に開通させた区間、すなわち本長篠駅から三河海老駅までの間に位置する途中駅として開業しました。

駅が置かれた玖老勢地区は、愛知県豊橋市と長野県飯田市を結ぶ主要街道である伊那街道沿いの農山村であり、当時の鳳来寺村役場も置かれている地域の中心地でした。駅前には一定の広さを持つ空間が確保されており、駅の正面には劇場を併設した公民館が建てられるなど、地域の活動拠点としての役割も担っていました。かつて駅近くには郵便局もありましたが、後に玖老勢交差点付近に移転しています。

1956年（昭和31年）10月1日、田口鉄道が豊橋鉄道に合併されたことで、当駅は豊橋鉄道田口線の駅となりました。その後、1958年（昭和33年）には駅舎の屋根がトタン葺きから瓦屋根へと改修されるなど、設備の維持管理が行われました。しかし、田口線の廃線が決定し、1968年（昭和43年）9月1日、路線廃止に伴い玖老勢駅もその歴史に幕を下ろしました。

駅構造

玖老勢駅は、島式ホーム1面2線を有する構造の駅でした。これは、ホームの両側に列車が発着できる形態です。また、駅員が配置されている有人駅であり、1956年（昭和31年）時点では駅長を含め4名の職員が勤務していました。

利用状況と貨物輸送

当駅は旅客および貨物の輸送において、田口線内でも重要な駅の一つでした。1957年度の統計によると、年間の乗車人員は約9万6千人（1日平均約262人）に上り、そのうち約6割にあたる約5万8千人が定期乗車券の利用者でした。この乗車人員数は、田口線に存在した全11駅の中で、本長篠駅、鳳来寺駅、三河田口駅、三河海老駅に次ぐ5番目の多さでした。

貨物取扱量も多く、同年度には発送が16,235トン、到着が227トンを記録しています。これは、田口線内で貨物を取り扱っていた7駅の中で、本長篠駅に次いで2番目に多い実績でした。当駅で扱われた貨物の中には、鳳来寺村の西隣にあたる作手村岩波（現在の新城市作手岩波）で産出された珪石（けいせき）なども含まれていました。

廃線後の現在

田口線の廃止後、その輸送機能はバス路線に引き継がれました。2012年時点では、田口線跡に沿うように豊鉄バスの田口新城線が運行されており、愛知県道32号長篠東栄線を走行しています。玖老勢地区内には、駅名と同じ「玖老勢」というバス停などがありますが、かつての駅舎があった正確な位置は、隣接する「郷中橋」バス停に近いとされています。

駅の跡地には、一時期消防団の詰め所が建設されていましたが、平成時代の終わり頃に解体されました。現在は更地となっています。一方、駅周辺に残る線路跡の一部は、サイクリングロードとして整備されており、地域の憩いの場として利用されています。

隣接駅

豊橋鉄道 田口線

鳳来寺駅 - 玖老勢駅 - 三河大石駅

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