琴平電鉄塩江線

塩江線：日本唯一の非電化標準軌鉄道

香川県高松市を舞台に、昭和初期から戦時中にかけ、短いながらもユニークな歴史を刻んだ鉄道がありました。それが、琴平電鉄の支線として知られる塩江線です。本稿では、その歴史、技術的な特徴、そして車両について詳細に解説します。

路線概要と歴史

塩江線は、高松市仏生山地区の仏生山駅と高松市塩江地区の塩江駅を結ぶ、全長16.2kmの鉄道路線でした。最大の特徴は、日本内地において唯一の非電化標準軌（軌間1435mm）鉄道であったことです。1929年（昭和4年）、琴平電鉄の子会社である塩江温泉鉄道によって開業しました。当初は狭軌での計画でしたが、琴平電鉄の本線と貨車の直通を考慮し、標準軌に変更されています。

開業当初は、一日21往復もの運行本数を誇り、地域住民の足として重要な役割を果たしていました。しかし、経営は常に苦戦を強いられ、1938年（昭和13年）には親会社である琴平電鉄に吸収合併されました。その後、台風による被害や、時代の流れによる利用客の減少が追い打ちをかけ、1941年（昭和16年）5月10日、不要不急線と判断され廃止となりました。線路や車両は戦時中の資材供出に充てられました。

標準軌と気動車：技術的な側面

塩江線の車両は、川崎車輌製ガソリンカー5両のみでした。日本内地では類を見ない1435mm軌間気動車であり、その技術的な特徴は多くの注目を集めています。軽量化を徹底的に追求した設計は、小型の路面電車を思わせるサイズ感でした。しかし、その車体は独特で、運転台部分の前面窓が狭かったり、客室窓の配置が非対称だったりと、いくつかの異質な特徴を持っていました。

また、足回りも注目に値します。片ボギー式という珍しい構造で、片方は固定軸、もう片方は2軸ボギー台車を装備していました。これは、急勾配の路線に対応するための工夫でした。エンジンはアメリカ製のブダDW-6形を搭載、手動変速機と手動ブレーキというシンプルな機構でした。

廃線後の車両

廃線後、塩江線のガソリンカーは驚くべき変貌を遂げました。駆動装置や台車を取り外され、路面電車に改造されたのです。そして、満州国（現在の中国）の首都・新京（現在の長春）に送られ、そこで路面電車として活躍しました。戦時中の新京市内で運行する車両の姿は写真として記録に残っていますが、戦後の消息は不明です。2018年には、埼玉県の鉄道博物館で、当時のガソリンカーの設計図の一部が発見されました。

まとめ

塩江線は、その短い歴史の中で、標準軌という珍しい軌間、非電化という特殊性、そして独自のガソリンカーという多くの特徴を備えた、他に類を見ない鉄道でした。経営難や時代の変化の中で消滅したものの、その技術的特徴や歴史は、日本の鉄道史における貴重な1ページとして、現在でも人々の記憶に刻まれています。 資料や写真などからその姿を復元し、未来に伝える努力が続けられています。

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