甘い罠 (1963年の映画)

甘い罠

1963年に製作された日本映画『甘い罠』は、後に日本のインディペンデント映画界を牽引する存在となる若松孝二監督が手掛けた初期の作品です。シネスコサイズのモノクロームで撮影されたこの映画は、同年9月3日に公開されました。製作は東京企画、配給は宝映が行っています。

概要と製作背景

この映画は、後年「ピンク映画」というジャンルに分類されることになりますが、製作された当時はまだその用語は存在せず、配給元である宝映によって後に区分けされたものです。

特筆すべきは、その製作に至る経緯です。盟友であり、後に若松プロダクションの主要な脚本家となる足立正生氏によると、この作品は本来担当する予定だった監督が病気で欠席したため、若松孝二が急遽代打としてメガホンを取ったものだといいます。さらに、企画自体も若松自身のものではなく、他者によるものでした。こうした背景から、若松監督自身はこの『甘い罠』を自身のフィルモグラフィーの中でも「見せたくない作品」の一つとして挙げており、キャリアとして積極的に位置づけることにためらいがあったと伝えられています。製作費は約180万円、撮影期間は約2週間という、当時の自主・低予算映画としては一般的な規模とスピード感で製作されたようです。

フィルムの発見と公開

製作から時を経て、『甘い罠』のフィルムは長らくその所在が不明となっていました。文字通り「幻の映画」となっていたのです。しかし、あるフィルム収集家からの寄贈をきっかけに、そのフィルムが発見されました。この発見は、若松孝二の初期作品を研究する上で非常に貴重な機会をもたらしました。

発見されたフィルムは、公開時の82分のうち、約54分に再編集されたバージョンでした。完全な形ではないものの、失われたと思われていた作品の一部が確認されたことは大きな出来事でした。

発見された54分版は、2010年に開催されたぴあフィルムフェスティバル（PFF）でサプライズ上映され、多くの映画ファンや関係者の注目を集めました。そして、若松孝二監督の生誕80年を記念して、2016年10月には、若松プロダクションのYouTubeチャンネルにて、この現存する54分間全編が無料で公開されました。これにより、長らく見ることが叶わなかったこの初期作品が、広く一般に鑑賞される機会を得たのです。

キャスト・スタッフ

本作に出演したのは、以下の俳優陣です。

五所怜子
竹田公彦
香取環

製作に携わった主なスタッフは以下の通りです。

監督：若松孝二
脚本：峰三千雄、若松孝二
撮影：門口友也
照明：磯貝一
音楽：柳沢剛
製作：東京企画
配給：宝映

『甘い罠』は、若松孝二という稀代の映画作家が、いかにしてキャリアの初期を歩み始めたのか、また当時の自主・低予算映画製作がいかなる状況であったのかを知る上で、非常に興味深い資料といえるでしょう。監督自身が複雑な思いを抱いていた作品でありながらも、フィルムの発見と一般公開によって、その存在は後世に伝えられることとなりました。

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