生田万

生田万（いくた よろず）

生田万は、江戸時代後期の国学者で、尊王攘夷の思想を抱き、社会変革を志した人物です。1801年に上野国館林藩（現在の群馬県館林市）の藩士の家に生まれました。幼少の頃から学問に励み、藩校で儒学を修め、文武両道に通じていました。しかし、陽明学に傾倒したことで、周囲から疎まれるようになったと言われています。

国学への傾倒

24歳の時、江戸に出て国学者・平田篤胤に入門し、国学を本格的に学び始めました。特に日本の古典や易学に深く精通し、平田塾（気吹舎）では、碧川好尚と並ぶ高弟として塾頭を務め、篤胤から将来を嘱望されるほどでした。篤胤は「後を継ぐものは国秀」とまで言ったと伝えられています。万は生来、正義感が強く、社会の不正を許さない性格でした。そのため、幕府の政治を批判する言動も見られるようになり、篤胤はそれを危惧し、帰藩を勧めたとされます。

藩からの追放と私塾の開設

1828年、藩主へ提出した『岩にむす苔』は、藩政改革を訴える書でしたが、これが原因で藩から追放されてしまいます。その後、父の死をきっかけに帰藩を許されますが、家督を弟に譲り、上野国太田で私塾「厚載館」を開設し、後進の育成に尽力しました。また、この時期に易学の書である『古易大象経伝』を著述しました。1833年には、平田塾での書道の手本として『古学二千文』を著し、古代を理想社会として描きました。さらに、1836年には越後国柏崎に移り住み、桜園塾を開いて国学を講じ、貧しい人々に食料を分け与えるなどして人望を集めました。

生田万の乱

1837年、天保の大飢饉が発生し、社会不安が高まる中、大坂で大塩平八郎が「救民」を掲げて武装蜂起しました。この大塩の乱に触発された生田万は、飢饉で苦しむ民衆を救うため、同志数名とともに「奉天命誅国賊」を掲げて挙兵しました。彼は、桑名藩の陣屋を襲撃し、米の強奪を図りました。しかし、この蜂起は失敗に終わり、生田万は負傷し、自刃しました。享年37歳でした。なお、妻と2人の幼い子供も自害したと伝えられています。

生田万は、平田篤胤の高弟でありながら、大塩平八郎の乱に影響を受け、民衆救済のために立ち上がった人物として歴史に名を残しています。彼の著作には、『岩にむす苔』『古易大象経伝』『大中道人謾語』『日文伝評論』『大学階梯外篇』『良薬苦口』などがあります。また、『古学二千文』は撰述として知られています。

人物評

渡辺崋山は、天保の初めに旅行中に生田万と知り合い、旅の日記に彼の素描と人物評を残しています。これにより、生田万の人物像が今日に伝えられることになりました。

関連事項

生田万の乱
平田篤胤
気吹舎
大塩平八郎
* 渡辺崋山


生田万は、国学者としてだけでなく、民衆を救おうとした行動力ある人物として、後世に語り継がれています。

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