生食 (ウマ)

生食とその伝説

生食（いけずき）は、平安末期の武将である源頼朝が所有していた伝説的な名馬です。この馬は、頼朝の部下である梶原景季が強く欲しがっていたものの、最終的には佐々木高綱に下げ渡されたとされています。この故事は『平家物語』や『源平盛衰記』に記されており、歴史的事実かどうかは明らかではありませんが、多くの人々に語り継がれています。

生食の名前は、馬が人や物に対して非常に噛みつく習性から名付けられたとされており、対照的に磨墨（するすみ）はその漆黒の色から命名されたと言われています。生食は、黒栗毛で高さは約四尺八寸、尾の先が白いという特徴を持っていたと描写されています。

経緯と背景

源頼朝は、彼が所有していた馬の中でも生食と磨墨という二頭を特に重視していました。梶原景季は生食を強く望んでおり、頼朝に請願したものの、頼朝は磨墨を与えました。その後、頼朝は簡単に生食を佐々木高綱に贈与してしまい、木曽義仲の討伐に向かう先陣争いでは、佐々木高綱が生食に乗り、梶原景季が磨墨に乗って勇敢に戦ったのです。これは「宇治川の先陣争い」として知られています。

この後、なぜ頼朝が梶原の要望に応じず高綱に馬を渡したのかについては、異本によって様々な理由が述べられています。重要なのは、高綱が亡き父・秀能の葬儀のために遅れて頼朝の前に現れたという孝養が、大きな要因であったとされています。これにより、生食が権力を象徴する存在となったことを理解することができます。

生食の産地にまつわる説

生食の産地については多くの仮説があり、東北地方から九州まで様々な地域でその伝承が語られています。

東北地方

東北地方の伝説では、陸奥国三戸立で生まれたとされ、奥州藤原氏によって源頼朝に献上されたという説があります。また、宮城県では池月沼という場所があり、ここで生食が誕生したとの伝承も存在します。

駿河・壱岐・対馬説

生食の血統は駿河地方（現在の静岡県）にも関連しており、また、長崎県の壱岐にも関係しているという話があります。この地域では竜と牝馬が交配して産まれたという物語が語られています。

山陰・隠岐

山陰地方も生食の産地の一つとされていますし、隠岐の島においても、その産地についての言い伝えがあります。特に山陰地方では、幼い頃に母を失った馬が頼朝に献上されたという伝説が残っています。

下総説と安房説

千葉県北部の下総地域では古くから馬が生産され、名馬の一つとして生食が信仰の対象とされました。また、安房の鋸南町には、頼朝が池月を献上したという伝承があります。

東京・大田区および徳島県美馬市

東京都大田区では、頼朝が野馬を捕らえ生食と名付けた話が伝わっており、また徳島県美馬市にもそんな伝承が残っています。これらの地域には、今もその名残をとどめる神社や公園が存在します。

まとめ

生食は、源頼朝の名馬の中でも特にその名が知られています。多くの伝説と文献がその神秘性と魅力を引き立てており、今なお日本各地で多くの人々に愛され続けています。生食の物語は、日本の歴史を語る上で欠かせない要素の一つとなっているのです。

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