田中岑

田中岑（たなか たかし）は、1921年4月4日に香川県三豊郡和田村（現在の観音寺市豊浜町）で生まれ、2014年4月12日に93歳で亡くなった日本の洋画家です。春陽会の会員として、その芸術活動を続けました。旧制香川県立三豊中学校、日本大学芸術科を卒業しています。


生い立ちと初期の活動

1937年、三豊中学校の4年生の時に美術部を創設し、美術への情熱を燃やし始めました。1939年には東京美術学校油絵科に入学しますが、後に海老原喜之助の勧めにより日本大学芸術科に転校します。在学中から独立美術協会展などに出展し、その才能を早くから開花させました。


戦後の活動と春陽会

兵役を終え復員後、田中は再び創作活動を本格化させます。1947年には自由美術協会展に出品し、上京後も精力的に作品を発表しました。1950年には春陽会展で研究賞を受賞し、翌年には準会員、1953年には正会員に昇格しました。春陽会では、その確かな画力と独自の世界観で高く評価されました。


安井賞の受賞と海外での活動

1956年、田中岑は第1回安井賞を受賞しました。この賞は、将来の日本美術を担うと期待される具象的な作風の新人洋画家を対象としたもので、田中の才能が広く認められるきっかけとなりました。1960年から1961年にかけては、パリ、ロンドン、ローマに滞在し、現地の美術に触れ、国際的な視野を広げました。また、木村忠太のアールピノサンでの個展にも立ち会っています。


教育活動と晩年

1966年から4年間、女子美術大学で講師を務め、後進の育成にも尽力しました。1970年には、母校である香川県立観音寺第一高等学校の創立70周年記念壁画を製作するなど、地元への貢献も忘れなかったです。2014年4月12日、93歳で生涯を閉じました。兄は舞台美術家の田中照三です。


主な受賞歴

1939年 - 「自画像」で独立展初入選
1950年 - 春陽会展第1回研究賞受賞
1956年 - 「丘」でシェル美術賞二等入賞
1957年 - 「海辺」で第1回安井賞受賞
1986年 - 第15回川崎市文化賞受賞


主な展覧会

1941年、銀座の紀伊国屋での展覧会を皮切りに、数多くの展覧会を開催しました。1942年には、フレスコ壁画組合展や神戸での初個展を開催しました。1947年には、自由美術協会展や日本アンデパンダン展に出品しました。1950年以降は、毎年春陽会展に出品し、1953年には滝口修造選定による個展を開催しました。その他、「今日の新人1955年」展や現代日本美術展など、国内外の様々な展覧会に参加しました。1958年にはメキシコ国立現代美術館での現代日本美術展、オーストラリア・ニュージーランド巡回日本現代美術展にも参加しました。1960年には中南米巡回日本現代美術展、1977年には安井賞20周年記念展にも出展しました。1990年には神奈川県立近代美術館で川口龍夫との二人展を開催し、1996年には目黒美術館の「1953年ライトアップ-新しい戦後美術像が見えてきた」展に出品しました。2000年代に入ってからも、アジア平和美術展や安井賞40年の軌跡展など、様々な展覧会でその作品が紹介されました。


作品の特徴と評価

田中岑の作品は、具象的な作風の中に、光の表現を追求している点が特徴です。初期の作品から晩年に至るまで、その画風は一貫して、対象物を捉えながらも、光の変化や内面的な表現を重視しています。特に、風景画においては、独特の色彩感覚と光の描写が、見る者に深い印象を与えています。その画業は、日本の洋画界において、重要な位置を占めています。


参考文献

『香川県人物・人名事典』（四国新聞社）（1985年）
『香川人物名鑑 2001』（四国新聞社）（2001年）
『ふるさと道溝』（観音寺市豊浜町道溝自治会）（2008年）

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