田中精一 (経済学者)

田中精一：経済学者としての功績と悲劇的な最期

田中精一（1908年-1976年）は、日本の経済学界に大きな足跡を残した人物です。景気論と産業構成論を専門とし、立教大学教授、そして高崎経済大学学長として、日本の経済発展に貢献しました。しかし、その生涯は順風満帆ではなく、数々の困難や葛藤、そして悲劇的な結末を迎えることとなります。

学者としての歩み

東京府出身の田中精一は、東京帝国大学経済学部を卒業後、同大学院に進学。その後、日本大学商学部講師を経て、1938年には立教大学経済学部教授に就任しました。これは、大学卒業から極めて短い期間での昇進であり、彼の卓越した能力を示しています。

立教大学では、1940年に学位規程が認可されたことを受け、経済学博士や商学博士の論文審査にも携わりました。戦時中は大政翼賛会や民需協会で要職を務めましたが、戦後は一時公職追放の憂き目に遭っています。

戦後、アジア経済協力会専務理事などを経て、1953年には関東短期大学教授、1957年には高崎経済大学教授に就任。1964年には高崎経済大学学長に就任し、その手腕を発揮することとなります。

高崎経済大学長時代の苦闘

高崎経済大学学長在任中の田中精一は、大学入学試験を巡る大きな問題に直面しました。それまで、入学試験の補欠合格者については、地元優先という暗黙の了解があったようです。しかし、田中は、成績順による公平な選抜を徹底。1965年度の入学試験では、成績順で合格者と繰り上げ合格者を決定したのです。

この結果、高崎市や群馬県出身者の合格者数が減少。高崎市当局から地元優先の圧力がかかりました。さらに、有力者からの依頼を受けた受験生を「委託生」として入学させ、のちに編入させるよう圧力がかかったのです。

この事態に、田中は学長として毅然とした態度で臨みました。大学を一時休校にし、文部省の指導も得ながら、厳正な編入試験を実施。地元優先の入学は同年度限りとすることで、事態の収拾を図りました。しかし、高崎市長からの私立移管を示唆する発言など、困難は尽きませんでした。

田中学長は、私立移管に反対する立場を明確に示し、辞表を提出。最終的には、高崎市議会の反対により私立移管計画は頓挫しましたが、大学は大きな混乱を経験しました。この出来事は、田中精一の強い信念と、大学運営における困難さを物語っています。

海外技術協力事業団での活動と悲劇的な最期

高崎経済大学学長辞任後は、海外技術協力事業団に勤務。1968年から1972年にかけてはカンボジアに派遣され、国際協力にも貢献しました。

しかし、1976年9月15日、田中精一は、妻と共に相模湾上空を遊覧飛行中に、小型飛行機から飛び降り自殺するという悲劇的な最期を遂げました。その動機は明確には解明されていませんが、高崎経済大学長時代やそれ以前の様々な出来事が、彼の精神的な負担になった可能性も考えられます。

田中精一の遺産

田中精一は、経済学者として、そして大学行政者として、多くの業績を残しました。彼の功績は、日本の経済学の発展に貢献しただけでなく、大学における公平性と独立性の重要性を示すものと言えるでしょう。彼の悲劇的な最期は、私たちに多くのことを考えさせ、日本の高等教育の歴史において重要な一ページを刻んでいます。彼の生涯は、成功と挫折、そして困難に立ち向かう人間の姿を鮮やかに描き出しています。彼の業績は、これからも研究者や教育者たちに語り継がれるでしょう。

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