田中重太郎

田中重太郎（たなか じゅうたろう）

田中重太郎は、1917年7月7日に京都で生まれ、1987年5月16日に71歳で生涯を閉じた国文学者です。文学博士の学位を持ち、中古文学、特に平安文学の研究に尽力しました。戦後には平安文学研究会を主宰し、研究誌「平安文学研究」を刊行することで、当時の中古文学研究者たちの研究成果発表の場を提供しました。娘の田中雅子も歌人として知られています。

経歴

1936年、19歳で高等教員資格検定試験に合格。立命館中学校教諭などを経て、1959年に相愛女子短期大学（現相愛大学）教授に就任。その後、駿台予備学校京都校などでも教鞭をとりました。

『枕草子』研究

田中重太郎は、『枕草子』研究で特に知られています。1947年に朝日新聞社から刊行された日本古典全書で『枕草子』の校注を行った際、作品本来の意味に立ち返り、「草子」や「草紙」ではなく「冊子」と表記すべきであるとして、「枕冊子」という表記にこだわり続けました。

『枕草子』の写本には大きく分けて4つの系統があります。江戸時代に北村季吟が『枕草子春曙抄』を刊行して以来、大正時代まで能因本が流布本の主流でした。しかし、昭和初期に池田亀鑑が三巻本の本文解釈上の優位性を提唱し、田中も日本古典全書で底本に三巻本を採用しました。しかし、1953年に刊行した『校本枕冊子』では、当時学界で広く支持されていた能因本（三条西家旧蔵本）を底本として採用。さらに、1972年から刊行を開始した『枕冊子全注釈』（角川書店）全5巻でも、能因本を底本に採用しました。この『全注釈』の凡例には、注釈の礎稿が森本茂の手によるものであることが明記されています。全5巻のうち、5巻目のみが能因本にはない三巻本の章段の注釈となっています。

『全注釈』は、1983年に第4巻が刊行された後、最終巻を残して1987年に田中が逝去しました。最終巻は弟子の鈴木弘道が遺稿を引き継ぎましたが、鈴木も完成を待たず1992年に亡くなり、最終的に中西健治の手によって1995年に完結しました。

田中が蒐集した『枕草子』関連資料を始めとするコレクションは、現在、相愛大学図書館の春曙文庫に所蔵されています。

主な著書

枕冊子（朝日新聞社・日本古典全書、1947年）
清少納言枕冊子の研究（古典文庫、1947年）
堺本枕冊子（古典文庫、1948年）
前田家本枕冊子新註（古典文庫、1951年）
校本枕冊子（古典文庫、1953年 - 1969年）
枕冊子本文の研究（初音書房、1960年）
評釈枕冊子 解釈と文法（旺文社、1968年）
清少納言枕冊子研究（笠間書院、1971年）
枕冊子全注釈 全5巻（角川書店、1972年 - 1995年）
枕冊子上・下（旺文社文庫、1973年 - 1974年）
枕冊子三十五年（笠間書院、1975年）
校注枕冊子（笠間書院、1975年）

脚注

鈴木徳男「国文学者田中重太郎の『枕草子』研究」『近代化と学問』、相愛大学総合研究センター、2016年3月、55-74頁、CRID 1050001337636164608。

外部リンク

相愛大学図書館 春曙文庫資料展示

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