田中銀之助

田中銀之助：実業家としての顔とラグビー伝来への貢献

田中銀之助(1873-1935)は、明治から昭和初期にかけて活躍した実業家であり、日本におけるラグビー発祥に深く関わった人物として知られています。彼の名は、相場で巨万の富を築いた祖父・田中平八の孫として、また、英国ケンブリッジ大学留学を経てラグビーを日本に伝えた人物として、歴史に刻まれています。

華麗なる一族と英国留学

銀之助は、生糸や洋銀の相場で巨額の富を築き「天下の糸平」と呼ばれた田中平八を祖父に持ちます。父は、平八の長女と結婚した田中菊次郎（旧姓北村）です。裕福な家庭環境で育った銀之助は、神田淡路町の共立学校（現・開成中学）を経て学習院尋常中等科に入学。その後、留学準備のため横浜のヴィクトリア・パブリックスクールに進学します。ここで、後に彼と共にラグビーを日本に伝えることになるエドワード・B・クラークと出会います。

1887年、家督を相続した銀之助は、1889年にイギリスへ留学。リーズ校を経て、1893年にはケンブリッジ大学トリニティ・ホール・カレッジに入学します。ケンブリッジでは、クラークと再会し、共にラグビーに打ち込みました。1896年に法学士の学位を取得して帰国すると、すぐに家業である田中銀行の取締役に就任。その後も田中鉱業、東洋鉱山、日本製鋼所の役員を歴任するなど、実業界で活躍しました。

ラグビー伝来への貢献と多様な活動

帰国後の銀之助は、クラークと共に慶應義塾の学生にラグビーのルールを教え、指導したとされています。日本ラグビーフットボール協会の初代名誉会長を務めたことからも、彼のラグビー普及への貢献は多大であったことがわかります。

一方で、銀之助は多様な分野に活動の場を広げました。1912年には第一高等学校仏法科を卒業。1921年には神津牧場を引き継ぎ、東京で牛乳販売事業を展開しました。その一方で、芸者遊びに興じたり、柔道の腕前を生かして喧嘩に巻き込まれたりなど、奔放な一面も持ち合わせていました。

晩年と家族

1932年には田中銀行が解散。銀之助は1935年に死去しました。多磨霊園に眠る彼の生涯は、実業界での成功、ラグビー伝来への貢献、そして奔放な私生活と、様々な側面を備えた、波瀾万丈なものでした。

彼の家族もまた、歴史に名を残す人物を多く輩出しています。祖父・田中平八を始め、弟の田中虎之輔も田中銀行や田中鉱業の取締役を務めました。また、息子である元八郎は湘南学園の理事長を務め、孫の田中真一は慶應義塾體育會蹴球部（ラグビー部）の監督を務めるなど、その影響は現代まで続いています。

田中銀之助の生涯は、明治から昭和初期にかけての激動期を生き抜いた、稀有な実業家の一つの姿を示しています。彼の功績は、日本の経済発展のみならず、スポーツ文化の発展にも大きく貢献したと言えるでしょう。

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