田園の奏楽

『田園の奏楽』（でんえんのそうがく、伊: Concerto campestre、仏: Le Concert champêtre）は、ルネサンス盛期のイタリア人画家、ティツィアーノあるいはその師であるジョルジョーネによって、1509年頃に描かれたとされる絵画です。現在、パリのルーヴル美術館に所蔵されており、美術史の研究では、ティツィアーノの比較的初期の作品であるという見方が有力です。

日本では『田園の合奏』と呼ばれることもあり、ルーヴル美術館の日本語サイトでは『詩的な世界』という題名で紹介されています。

この作品は、印象派の巨匠エドゥアール・マネに大きな影響を与え、1863年にマネが『草上の昼食』を描くきっかけとなりました。

来歴

『田園の奏楽』は、長い間ジョルジョーネの作品とされてきましたが、近年では、人物の描写技法などから、ティツィアーノの初期の作品である可能性が高いと考えられています。しかし、描かれているモチーフや、非現実的な存在が同じ画面に描かれている点など、ジョルジョーネの作風に合致する部分も多く、ジョルジョーネが制作を開始し、彼の死後、弟子のティツィアーノが完成させたという説もあります。また、パルマ・イル・ヴェッキオやセバスティアーノ・デル・ピオンボの作品であるとする説も存在します。

この絵画は、かつてイタリアの名門ゴンザーガ家が所有していました。おそらく、マントヴァ侯フランチェスコ2世・ゴンザーガに嫁いだイザベラ・デステの遺産であったと考えられています。
その後、イングランド王チャールズ1世が購入しましたが、清教徒革命でチャールズ1世が処刑されたことで、王室コレクションは散逸しました。『田園の奏楽』もオークションに出品され、ドイツ人銀行家で美術品収集家であったエバーハルト・ヤーバッハの手に渡ります。
1671年、フランス王ルイ14世がヤーバッハからこの絵画を購入し、フランス王室コレクションに加えられました。

解釈

絵画には、草原で楽器を奏でる3人の若い男女と、少し離れた場所で水差しから水を注ぐ女性が描かれています。女性たちは薄い布をまとっているだけで、ほぼ裸体であるのに対し、男性たちは貴族的な衣装と質素な衣装をそれぞれ身につけています。背景には、羊の群れを見守る羊飼いが描かれています。

『田園の奏楽』の主題については、詩歌の寓意であると考えられています。2人の女性は、男性たちの幻想や霊感から生まれた理想美の象徴と解釈されています。水差しを持つ女性は悲劇的な詩歌の女神、フルートを持つ女性は田園を歌う詩歌の女神であると考えられます。

また、リュートを奏でる貴族的な衣装の男性は、高貴な抒情詩を象徴し、質素な衣装の男性は、アリストテレスの『詩学』に準拠すると、世俗の抒情詩を象徴すると考えられています。

別の解釈では、絵画に描かれた4人の人物は、世界の四大元素である水、火、土、風を象徴しており、世界の調和とそれぞれの関係性を表しているとも考えられています。

この絵画は、単なる風景画としてだけでなく、深い象徴的な意味を持つ作品として、美術史において重要な位置を占めています。

ティツィアーノの初期の作品の中でも、特に重要なものの一つであり、彼のその後の作風にも大きな影響を与えたと考えられています。

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