パルマ・イル・ヴェッキオ

パルマ・イル・ヴェッキオ(Palma il Vecchio、1480年 - 1528年7月)は、イタリアルネサンス期に活躍したヴェネツィア派の画家です。本名はヤコポ・パルマ(Jacopo Palma)またはヤコポ・ネグレッティ(Jacopo Negretti)と言います。同名の甥、パルマ・イル・ジョーヴァネ(若いパルマ)と区別するために、「老パルマ」と呼ばれています。

生涯



パルマは、ベルガモ近郊のセリーナで生まれました。1510年にヴェネツィアで初めて名前が記録されていますが、おそらくその少し前にはすでにヴェネツィアに滞在していたと考えられます。1511年にはアンドレア・プレヴィターリに師事しました。初期の作品には、師であるプレヴィターリの師、ジョヴァンニ・ベッリーニの影響が見られます。しかし、パルマはジョルジョーネとティツィアーノが切り開いた新しい様式と主題を取り入れるようになります。

パルマは、ロレンツォ・ロットとは友人でありライバルでもあり、またティツィアーノとは弟子に近い関係だったと伝えられています。ベリーニやジョルジョーネが亡くなり、セバスティアーノ・デル・ピオンボロレンツォ・ロット、プレヴィターリがヴェネツィアを去ると、パルマはティツィアーノに次ぐヴェネツィア派の代表的な画家として活躍し、48歳で早世するまで多くの作品を制作しました。また、ボニファーツィオ・ヴェロネーゼの師であり、ジョヴァンニ・カリアーニにも影響を与えました。

近年の研究では、ジョルジョーネやティツィアーノの作品とされていたものが、パルマ・イル・ヴェッキオの作品であると再評価されるケースが増えており、彼の作品数は増加傾向にあります。パルマの絵画における色彩と絵具の扱い方は卓越しており、その純粋な絵画的能力は非常に高い評価を受けています。

作品



パルマの作品は、豊かな色彩表現が特徴ですが、創意工夫や力強いデッサンは控えめであると評されています。彼は、ジョルジョーネやティツィアーノによって確立された、理想化された美しい女性像を描くことを得意としました。これらの女性像は、当時のヴェネツィアの有名な遊女の肖像画ではないかと推測されることもあります。また、牧歌的な風景の中に宗教的なテーマを描くことも得意とし、特に、聖母子と聖人、そして寄進者と思われる人物たちを描いた「聖会話」を、横長の構図で発展させました。

神話画や世俗的な作品では、『風景の中のヴィーナスとキューピッド』や『水浴するニンフたち』のように、正確な主題が不明なものも多く、描かれた人物たちの間に何らかのドラマが展開されているかのように感じられます。これらの作品は、裕福なヴェネツィア貴族から高い人気を得ました。

パルマは、ヴェネツィアやその周辺地域の教会のために、伝統的な祭壇画も制作しました。ベルガモのジェローザ教会旧蔵の『聖ヘレナとコンスタンティヌス、聖ロクス、聖セバスティアヌス』は、1525年頃に制作されたもので、ヴェネツィアで主祭壇画を依頼された数少ない作品の一つです。特に、サンタ・マリア・フォルモーサ教会の『聖バルバラの多翼祭壇画』や、サンテレナ・イン・イゾーラ聖堂の主祭壇画、未完に終わったサン・マルコ同信会委託の『悪霊からヴェネツィアを守る聖マルコ、聖ゲオルギウス、聖ニコラ』は、ジョルジョ・ヴァザーリからも称賛されています。

パルマは、イタリアの他の地域の影響も積極的に取り入れ、ミケランジェロのポーズを模倣することもありました。1515年から1520年代にかけては、中央イタリアの影響が見られます。1520年代のパルマの成熟した作品は、「盛期ルネサンス様式」の特徴を備えており、コントラポストの習得、明るい色調のパレットの活用、保守的な構成における人間の理想的な体型の多様な表現が挙げられます。これらの特徴は、劇的な明暗法や空間表現、表現主義的な手法を排除して、彼の作品全体を支配しています。

パルマの作風については、彼の突然の死によって、芸術がさらに発展していたのか、それともエネルギーと方向性を失っていたのかという点で、意見が分かれています。シドニー・ジョセフ・フリードバーグは、パルマのキャリアが、ティツィアーノやマニエリスムを含む、他の北イタリアや中央イタリアの潮流の影響の間で揺れ動いていたと分析しています。彼の工房についてはほとんど知られていませんが、ジョヴァンニ・カリアーニと同様に、ボニファーツィオ・ヴェロネーゼの師であったと考えられています。

パルマの作品には、娘とされるヴィオランテを描いたものが多く、ティツィアーノは彼女に夢中だったと言われています。彼の代表作の一つである『聖バルバラの多翼祭壇画』は、6枚の絵画から構成されており、中央には死せるキリスト、その下に聖バルバラ、右から順に聖ドミニコ、聖セバスティアヌス、洗礼者ヨハネ、聖アントニウスが描かれています。ドレスデン美術館アルテ・マイスター絵画館所蔵の、戸外に座る三姉妹を描いた絵画は『三美神』として知られています。1900年ヴェネツィアで発見された肖像画は、ヴィオランテを描いたものだと考えられています。

その他の代表的な作品には、以下のようなものがあります。

『最後の晩餐』(ヴェネツィア、サンタ・マリア・マーテル・ドミニ教会)
『玉座の聖母と聖人たち』(ヴィチェンツァ、サント・ステファノ教会)
『エピファニー』(ミラノブレラ美術館
『羊飼いの礼拝と寄進者』(パリルーヴル美術館
『聖カタリナ、聖ヨハネ、寄進者と聖家族』(ベオグラード、Beli Dvor)
『聖ステファノ他の聖者たち、キリスト、ナインの寡婦』(ヴェネツィア、アカデミア美術館)
『聖母被昇天』(ヴェネツィア、アカデミア美術館)
『エマオのキリスト』(フィレンツェピッティ宮殿

最近の研究では、ティツィアーノがジョルジョーネの『眠るヴィーナス』と同じように、パルマの死後、彼の『聖会話』を完成させたことが判明しました。ティツィアーノは、この作品の人物像を上塗りし、背景を変更しました。この作品は現在、ヴェネツィアのアカデミア美術館に所蔵されています。

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