田川飛旅子

田川飛旅子は、1914年8月28日に東京で生まれ、1999年4月25日に生涯を閉じました。本名を博といい、俳人としてだけでなく工学者としても才能を発揮した人物です。

生い立ちと学歴

東京府豊多摩郡渋谷町（現在の渋谷区）で生まれた田川は、1933年に日本メソジスト協会中央会堂で洗礼を受けました。その後、府立六中（現在の東京都立新宿高等学校）から一高へと進み、1940年には東京帝国大学工学部を卒業しました。

技術者としてのキャリア

大学卒業後、古河電池に入社した田川は、電池製作所に配属されました。戦後には技師長や役員として会社を支え、『電池及蓄電池』（1953年）という著書も発表しています。1961年には東京大学から工学博士号を授与され、技術者としての確固たる地位を築きました。

俳人としての活動

一高在学中に短歌に興味を持ち、「アララギ」に入会して土屋文明に師事しました。また、中学時代から画家である耳野卯三郎に油絵を習い、1938年には「妹の像」で光風会に入選するなど、芸術的な才能も開花させていました。1940年に古河電池に入社した際、同僚の勧めで俳句を始め、「飛旅子」という俳号を用いました。同年10月には、加藤楸邨が創刊した「寒雷」に投句し、巻頭を飾りました。この巻頭掲載は、田川にとって生涯の誇りとなりました。1946年には澤木欣一らとともに「風」の創刊に参加し、1947年には古沢太穂らとともに「寒雷」の同人となりました。1973年には自ら「陸」を創刊し、主宰として活動しました。1979年には『加藤楸邨全集』の編集委員を務め、現代俳句協会では幹事長や副会長を歴任しました。その功績が認められ、第3回清山賞、第10回現代俳句協会大賞を受賞しました。

作風と特徴

田川の句は、鋭い観察眼とメカニックな視点、そして乾いた叙情が特徴です。代表句には「遠足の列大丸の中とおる」などがあり、デパートを通り過ぎる遠足の列を捉えた句は、彼の独特な視点を表しています。60歳代には彫刻家ジャコメッティに傾倒し、物をあるがままに見る姿勢をさらに強めました。川柳などからも影響を受け、「非常口に緑の男いつも逃げ」といったユーモラスな無季句も詠んでいます。

主要な句集

田川の主な句集には、『花文字』（1955年）、『外套』（1965年）、『植樹祭』（1971年）、『邯鄲』（1975年）、『山法師』（1980年）、『薄荷』（1982年）、『使徒の眼』（1993年）などがあります。これらの句集には、彼の俳句に対する深い造詣と、独自の美意識が表れています。

参考文献と関連情報

田川飛旅子に関する参考文献としては、『現代俳句大事典』（三省堂、2005年）や「デジタル版 日本人名大辞典+Plus」、関連文献として『田川飛旅子読本』（角川書店、1995年）などがあります。また、インターネット上では、現代俳句協会の「現代俳句人名事典」や「増殖する俳句歳時記」、週刊俳句の「奇人怪人俳人（六）ヘンテコ博士・田川飛旅子」などで、彼の俳句や人物像に触れることができます。

田川飛旅子は、工学者としての論理的な思考と、俳人としての繊細な感性を併せ持つ稀有な人物であり、その作品は今もなお多くの人々に愛されています。

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