田房ダム

田房ダム

広島県東広島市八本松町正力の田房川に位置する、重力式コンクリート形式のダムです。この田房川は一級河川である黒瀬川の支流にあたります。

田房ダム上流におけるゴルフ場建設計画と紛争

当ダムの上流部では、過去にゴルフ場を建設する構想が持ち上がりました。しかし、計画区域に近い住民たちは環境への影響などを懸念し、この建設計画に強く反対する運動を展開しました。住民らは計画の差し止めを求め、事業者側に対し訴訟を提起するに至ります。

この訴訟の過程で、住民側は裁判所に工事差し止めの仮処分を申し立てました。広島地方裁判所は、1999年2月1日にこの仮処分を認めましたが、その決定には条件が付されました。それは、債務者である間組に対して1000万円、そして恋文字開発に対して5000万円という、合計6000万円もの保証金を裁判所に供託するというものでした。

これほど高額な供託金の準備は、原告である近隣住民たちにとって非常に困難な課題となりました。一体どうやってこのような大金を工面すれば良いのか、住民たちは頭を抱えることになります。しかし、弁護団は戦略的な観点から一つの提案を示しました。すなわち、建設主体である恋文字開発の子会社にあたる間組に対し、まず1000万円を供託すれば、親会社である恋文字開発は工事を他に委託することが事実上不可能になり、結果的に工事は中止に追い込まれる可能性が高いという見立てです。

この弁護団の助言を受け、住民たちは必要な供託金1000万円を集めるため、全国規模でのカンパを呼びかけることを決断しました。その手段として、彼らは全国紙を通じて支援を訴えました。この訴訟における仮処分決定は、「本格的な工事が始まる前の差し止め」という点で全国的にも極めて珍しい事例であり、大きな反響を呼びました。その結果、全国各地から多数の賛同者が現れ、わずか約20日という短期間で800万円を超える寄付金が集まりました。この温かい支援により、住民側は必要とされた1000万円の供託金を無事確保することができ、裁判所の仮処分条件を満たしました。これにより、ゴルフ場建設計画は事実上頓挫し、工事は実行されませんでした。

この一件は、地域住民による環境保護を訴える運動が、法的な手続きを通じて建設プロジェクトを差し止めることに成功した事例として、しばしば言及されます。現在、ダム周辺の跡地には、かつての計画の経緯を示すものとして「田房ダム上流のゴルフ場計画跡地」と記された看板が設置されています。

交通アクセス

公共交通機関を利用する場合、芸陽バスの「篠」バス停から徒歩でおよそ20分程度の距離に位置しています。

参考文献

* 山田延廣「田房ダム上流のゴルフ場事件」『環境と正義』第20号、日本環境法律家連盟、1999年4月25日

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