田所善治郎

田所善治郎：静岡商業の星から国鉄スワローズのエースへ

1934年7月17日、静岡県焼津市に生まれた田所善治郎は、投手として輝かしい野球人生を送りました。静岡商業高校時代には、1952年の選抜高等学校野球大会で、エースとしてチームを優勝に導く活躍を見せました。その活躍ぶりは、全試合完封勝利という偉業達成にまで及びました。これは、戦前の名投手である野口二郎、大島信雄に次ぐ快挙でした。

決勝戦では、鳴門高校を相手に圧巻のピッチングを披露し、チームの選抜初優勝に大きく貢献しました。準決勝では、強豪・八尾高校の木村保投手を相手に勝利を収めるなど、その実力は折り紙付きでした。チームメイトには、後にプロ野球選手となる横山昌弘など、多くの有望な選手がいました。夏場の選手権大会では、都留高校のエース矢頭高雄投手に敗れましたが、彼の高校時代の活躍は、多くの野球ファンに記憶されています。

高校卒業後の1953年、田所は国鉄スワローズに入団。入団当初から先発ローテーションの一角として活躍しました。1957年には、チームのエースであった金田正一と共にチームを支え、自身初の2桁勝利となる15勝を挙げました。翌1959年も11勝をマークするなど、国鉄スワローズの中心選手として活躍を続けました。その後は勝ち星こそ減りましたが、1964年まで現役生活を続けました。

現役引退後は、国鉄スワローズでコーチを務め、指導者としての道を歩み始めました。その後は、静岡県野球連盟競技役員や少年野球チーム「焼津リトルハヤブサ」の代表を務め、野球界の発展に貢献しました。

田所の投球スタイルは、オーバースローから繰り出される多彩な変化球が特徴でした。ドロップ、カーブ、シュート、シンカーなど、巧みな変化球を操り、打者を翻弄しました。

彼のプロ野球生活は、数々の記録やエピソードに彩られています。1958年6月1日、大洋ホエールズ戦では、セ・リーグ記録となる1試合7被本塁打を記録するという苦い経験をしました。これは、現在も破られていない記録として、彼の野球人生における一つの大きな出来事として残っています。

また、1967年7月には、一塁コーチとして読売ジャイアンツ戦を担当した際、面白いエピソードが残されています。ヒットを打ったデーヴ・ロバーツ選手に「ノー、ノー」と伝えたつもりでしたが、ロバーツ選手は「ゴー、ゴー」と聞き間違え、結果的に走塁死となってしまいました。このプレーは、チームの1点差での敗戦に繋がっただけでなく、対読売ジャイアンツ戦の開幕10連敗という不名誉な記録にも繋がりました。

田所と金田正一選手との出会いは、1950年に静岡商業高校が遠征した際に、享栄商業高校と岡崎高校の練習試合を観戦した時でした。3年後、田所が国鉄スワローズに入団した際、金田選手は、まだ直球とドロップしか持ち球がなかった田所に、自身の変化球の握りを惜しみなく伝授しました。田所は金田選手を「野球の先生」と評し、その教えに深く感謝していました。金田選手の厳しい指導と、裏腹な優しさに触れたエピソードは、田所の人間性を深く理解する上で重要な出来事と言えるでしょう。

2021年1月6日、腸間膜動脈閉塞症のため86歳で永眠しました。静岡商業高校時代から国鉄スワローズ、そして指導者として、野球界に多大な貢献をした田所善治郎の功績は、多くの野球ファンに記憶され、語り継がれていくことでしょう。彼の野球人生は、多くの若手選手にとって、目標であり、そして大きな励みとなるでしょう。

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