田村響

田村 響（たむら ひびき）

1986年生まれ、日本のピアニスト。現在は京都市立芸術大学にて講師を務めている。新日本フィルハーモニー交響楽団で指揮者として活躍する田村直貴は実兄にあたる。

略歴

愛知県安城市に生を受け、地元の中学校を経て、愛知県立明和高等学校音楽科で学んだ。その後、音楽の研鑽を積むためザルツブルク・モーツァルテウム大学へ留学。在学中の2007年、弱冠20歳にして権威あるロン＝ティボー国際コンクールで優勝を飾る。この快挙により国際的な演奏家としてのキャリアが本格化し、多忙な演奏活動のため年間のおよそ3分の1を海外で過ごす日々を送った。

しかし、多忙な活動の中で大学での学びが中途半端に終わってしまったと感じていた田村は、20代のうちに学業に一つの区切りをつけることを決意。2013年4月に大阪音楽大学大学院に入学し、改めて音楽の理論と実践に向き合った。2015年に修士号を取得し、同年4月からは教育者としても後進の指導にあたるべく、京都市立芸術大学の講師に就任した。

音楽的な指標として、ピアニストのクラウディオ・アラウを深く敬愛している。自身の演奏や音楽に対する志に迷いが生じた際には、アラウが奏でるベートーヴェンの音楽を聴くことで、原点に立ち返り、新たな示唆を得るという。

趣味と内省

演奏活動の合間の時間を見つけては、哲学や心理学といった分野の書籍を読むことを好む。田村は、音楽という抽象的で答えの見えにくい世界で悩むこともあったが、読書を通じて様々な視点を得ることで、困難な経験も後になってみれば必要なプロセスだったと受け止められるようになったと語っている。

また、カメラも重要な趣味の一つである。モーツァルテウム音楽院での学生時代には、授業の空き時間を利用してカメラを携え、一人でヨーロッパ各地を旅することで感性を磨いた。

コンクール優勝が与えた影響

田村がロン＝ティボー国際コンクールで優勝した翌年の2008年、彼の母校である愛知県立明和高等学校音楽科は、定員40名に対して希望者100名と、前年比で大幅な志願者数の増加を見せた。これは、同時期に隣接する名古屋市立菊里高等学校音楽科が定員割れに転じたこととは対照的であった。

朝日新聞の取材に応じた明和高校音楽科の主任は、田村の前年の優勝とその際の出身校紹介が大きな影響を与えたことを認めている。両校は入学希望者確保のため、公開実技試験や選抜演奏会を実施するなど様々な施策を講じたが、学校教育の現場としては、コンクールはあくまで学習の一つの目標に過ぎず、結果に一喜一憂せず生徒一人ひとりの個性や可能性を大切に育む姿勢を強調した。誰もがプロの音楽家になるわけではないからこそ、将来演奏家にならなかったとしても、音楽を心から楽しみ、理解できる聴衆を育てることにも重きを置くという教育理念を示した。

主な受賞歴

幼少期より数々のコンクールで優秀な成績を収めている。

小学2年生時：ピティナ・ピアノコンペティション全国大会B級銀賞
小学3年生時：ピティナ・ピアノコンペティション全国大会C級金賞
小学5年生時：ピティナ・ピアノコンペティション全国大会E級金賞
中学2年生時：ピティナ・ピアノコンペティション全国大会G級金賞
2002年：ピティナ・ピアノコンペティション全国大会特級グランプリ（史上最年少15歳での受賞）
2002年：エトリンゲン青少年国際ピアノ・コンクールB部門第2位及びハイドン賞
2003年：アリオン賞
2005年度：出光音楽賞（第16回）
2007年：ロン＝ティボー国際コンクール優勝
2008年3月：文化庁長官表彰
2008年5月：愛知県安城市市民栄誉賞、凱旋ピアノリサイタル開催
2008年度：ホテルオークラ音楽賞（第10回）
2015年度：文化庁芸術祭賞音楽部門新人賞
2015年度：愛知県芸術文化選奨文化新人賞

評価

その演奏は、専門家からも高く評価されている。

愛知県立芸術大学准教授の安原雅之は、2008年に名古屋フィルハーモニー交響楽団との共演で披露されたラフマニノフのピアノ協奏曲第2番について、「安定したテクニックと高い芸術性を兼ね備え、作品の持つ絢爛豪華なヴィルトゥオーソ性と叙情性を遺憾なく発揮した」と評し、特に「オーケストラの音の狭間から矢のように飛び出してくる弱音」の美しさを絶賛した。

朝日新聞の谷辺晃も、2008年の関西フィルハーモニー管弦楽団との共演を聴いて、「技術も音楽性もずば抜けていて驚嘆した」とその類まれな才能を称賛している。

主なディスコグラフィ

国内外でリリースされた主なアルバムには以下のものがある。

デビュー・アルバム（ハイドンほか）
ショパン作品集（ピアノソナタ第2番ほか）
リサイタルアルバム（リスト、モーツァルト作品集）
フランス・ヴァイオリン作品集（ヴァイオリニスト小林美樹との共演）
* ロン＝ティボー国際音楽コンクール優勝記念盤（モーツァルト、フォーレ、ブラームス作品集）

ロン＝ティボー国際コンクール優勝を機に、国内外で精力的な演奏活動を展開しており、同時に教育者として未来の音楽家育成にも情熱を注いでいる。

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