田舎の婚礼の交響曲

カール・ゴルトマルク：交響曲《田舎の婚礼》作品26

カール・ゴルトマルク（Karl Goldmark, 1830-1915）が1875年に完成させた交響曲《田舎の婚礼》（ドイツ語原題：Ländliche Hochzeit）作品26は、彼の代表作の一つであり、作曲家として円熟期を迎えていた時期に生み出されました。便宜上「第1番」と呼ばれることもありますが、公式な通し番号は付されていません。ゴルトマルクが作曲した2つの交響曲のうち、最初の作品にあたります。この作品の翌年には、現在も頻繁に演奏される名高い《ヴァイオリン協奏曲 第1番 イ短調》が作曲されており、いずれも彼の創造力が最も発揮された時期の成果と言えるでしょう。作品の題名については、《田舎の結婚式》《村の婚礼》《村の結婚式》など複数の訳例が存在し、作品全体を指して《田舎の婚礼の交響曲》や《村の結婚式の交響曲》と呼ばれることもあります。

初演と評価

本作は、1876年3月5日にウィーンで、著名な指揮者ハンス・リヒターのタクトのもと初演されました。初演を聴いたゴルトマルクの散歩仲間であったヨハネス・ブラームスは、この作品を絶賛したと伝えられています。ブラームスはゴルトマルクに対し、「あれは君のこれまでの作品の中で最高の曲だよ。全く単純明快で非の打ち所がない。あたかもユピテルの頭から忽然と現れたミネルヴァのように、最初から完璧な姿で完成されていたのだからね」と語ったとされています（ちなみに、ブラームス自身の《交響曲第1番》の初演は同年11月でした）。

オーストリア国外での初演も早く、アメリカでは翌年の1877年1月13日に、セオドア・トマスの指揮、ニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団の演奏で行われました。

その後もこの《田舎の婚礼の交響曲》は、トマス・ビーチャムやレナード・バーンスタインといった20世紀を代表する巨匠たちによって積極的に取り上げられ、録音も多数存在します。モーリス・アブラヴァネル、アンドレ・プレヴィン、ヨンダーニ・バット、スティーヴン・ガンゼンハウザー、ヘスス・ロペス＝コボスなど、多くの指揮者がこの魅力的な作品の録音を残しています。

楽器編成

この交響曲は以下の標準的な2管編成にトロンボーン、ティンパニ、打楽器を加えた編成で作曲されています。

フルート：2
オーボエ：2
クラリネット：2
ファゴット：2
ホルン：4
トランペット：2
トロンボーン：3
ティンパニ
トライアングル
シンバル
* 弦楽五部

構成

《田舎の婚礼の交響曲》は、伝統的な交響曲の形式にとらわれず、むしろ組曲に近い性格を持っています。通常の4楽章ではなく、ベートーヴェンの《田園》、ベルリオーズの《幻想交響曲》、シューマンの《ライン》などと同様に5つの楽章から構成されています。ゴルトマルクは、各楽章に直接的な物語を示す標題は付けていませんが、農村での結婚式にまつわる情景や雰囲気を思わせるような題名を付けています。全体を通じて、中欧的な色彩感、そして愉悦とユーモアに満ち溢れた魅力的な作品となっています。

各楽章は以下の通りです。

1. 第1楽章「婚礼の行進」（Hochzeitsmarsch）
この楽章は、行進曲風の主題と、それに続く13の変奏からなります。交響曲の第1楽章に変奏曲形式が用いられるのは極めて珍しい例です。ゴルトマルクはここで、主題の速度、拍子、リズム、音色、テクスチュア、雰囲気、調性、和声などを次々と変化させることで、多様な表情を生み出し、その巧みな作曲技法を存分に発揮しています。主題はチェロとコントラバスによって提示され、讃美歌『神の御子は今宵しも』に似た親しみやすい旋律です。続く変奏では、ホルンや木管楽器、弦楽器が様々な組み合わせで登場し、色彩豊かに展開します。特に第8変奏のスケルツァンド風の軽快さや、第10変奏でのヴァイオリンの技巧的な動きと他の弦楽器のピチカート、第12変奏でのオーボエやファゴット、ヴィオラ、ヴァイオリン独奏による新しい旋律の登場など、聴きどころが満載です。最後の第13変奏は短いファンファーレで始まり、新たな主題がオーケストラ全体で力強く演奏された後、静かに閉じられます。

2. 第2楽章「婚礼の唄」（Brautlied）
文字通り「新郎新婦の唄」と題された、抒情的な歌謡楽章です。美しく、心温まる旋律が奏でられます。

3. 第3楽章「セレナーデ」（Serenade）
楽章の冒頭で2本のオーボエが印象的な主題を奏でます。この主題は弦楽合奏によって豊かに敷衍されていきます。特にオーボエ、クラリネット、ファゴット、チェロによって奏でられるパッセージは、田舎の祭りで聴かれるようなバグパイプの音色を模倣しているかのようです。

4. 第4楽章「庭園にて」（Im Garten）
この楽章は、作品中で2つ目の緩徐楽章にあたります。非常に抒情的でロマンティックな雰囲気を持っています。中間部では変ホ短調に転調し、一時的に陰影のある表情を見せます。

5. 第5楽章「舞踊」（Tanz）
「ダンス」と名付けられた終楽章は、この作品の中で唯一ソナタ形式で作曲されています。楽章はフーガで開始されるという特徴的な導入を持ちます。賑やかな舞曲の主題が繰り広げられる中、一時的に第4楽章「庭園にて」の主題が回想され、静けさをもたらしますが、すぐに舞曲が戻り、熱狂的な盛り上がりのうちに作品全体が閉じられます。

《田舎の婚礼の交響曲》は、伝統的な枠に収まらない自由な発想、色彩豊かなオーケストレーション、そして心に響く旋律に満ちた、聴く者を魅了する作品です。ゴルトマルクの個性と才能が光る、隠れた名曲と言えるでしょう。

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