田舎医師

田舎医師 - 松本清張の短編小説

『田舎医師』（いなかいし）は、著名な作家松本清張による短編作品で、1961年に『婦人公論』に掲載され、その後短編集『影の車』に収められました。この作品は、田舎の風景や人間関係を舞台にした、深いテーマを持つ物語です。

あらすじ

物語は、杉山良吉という男性が、雪深い12月の半ば、木次線の八川駅で降り立つところから始まります。良吉は、父の故郷である葛城村を訪問するため、山を越えて馬木川の方に向かいます。葛城村には、良吉の父、猪太郎の親族が亡くなってしまい、ただ一人、本家を継ぐと言われている医者の杉山俊郎が存在していました。しかし、俊郎は往診に出かけて不在だったため、良吉は仕方なくその村で一晩過ごすことになるのです。

夜の帳が下りる中、俊郎の妻である秀の言葉によると、夫は片壁という部落に往診に出かけており、戻る気配がありませんでした。良吉は、一晩宿泊することを決意し、翌日には俊郎の不在の理由が次第に明らかになっていくことになります。村の駐在から、俊郎が危険な断崖から谷へ転落したとの知らせを受けた良吉は、秀と共に現場へ向かうことになります。夜明けと共に、医師の遺体と馬の死体が発見され、現場で実地検証が行われました。良吉は、雪の上に残された足跡や橇の跡を観察し、そこに隠された真実を求めるのでした。

作品のテーマ

この物語には村社会が抱える閉鎖性や、人間関係のもつれ、恐れと不安が色濃く描かれています。小説家の阿刀田高は、主人公とその父の対比を指摘し、一生故郷に帰れなかった父と、帰っても求めるものが得られなかった博一の物語が表されていると分析しています。この視点から、物語は村に根ざす二人の男の人生を描いているといえるでしょう。

また、推理作家の有栖川有栖は、作品の魅力を評価し、雪の上の足跡を巡る推論の論理性や村人たちの関係性の描写に注目しました。彼は、作品には伏線が巧みに配置されており、最後の展開でそれが全て回収される点を絶賛しています。このことから、作品は単なる田舎を舞台にしたミステリーではなく、深い人間ドラマを持つ傑作であると評されています。

結論

松本清張の『田舎医師』は、一見地味な設定の中に、鮮烈な人間ドラマを描いた作品です。村社会の厳しさ、医療を通じた人々のつながり、そして人間としての生き様が描かれており、読む者に深い考察を促します。この作品は、後世においても多くの読者に語り継がれるべき価値のある一作です。

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