甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン

甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン（TRH）

甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン、通称TRH（Thyrotropin-Releasing Hormone）は、主に視床下部から分泌されるペプチドホルモンです。このホルモンの主な役割は、下垂体前葉から分泌される甲状腺刺激ホルモン（TSH）およびプロラクチンの分泌を調節することにあります。TRHは視床下部以外にも、消化管やランゲルハンス島といった体のさまざまな部位でも検出されることが知られています。また、合成TRHは視床下部と甲状腺の機能を調べるための検査において使われることがあります。

発見の背景

TRHの発見は1950年代から1960年代にかけての科学者たちの努力によって成し遂げられました。特に、ロジェ・ギルマン（Roger Guillemin）とアンドリュー・ウィクター・シャリー（Andrzej W. Schally）は、視床下部ホルモンの抽出に関する競争を繰り広げていました。彼らは数十万頭にも及ぶ大型動物（ヒツジやブタ）の視床下部組織からのホルモンを抽出する作業に取り組みましたが、このプロセスは非常に難解でした。

当初、彼らは副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンの抽出を試みましたが、1962年頃にはその作業を中止し、TRHに注力しました。しかし、こちらも容易には成果が得られませんでした。1969年、両グループはほぼ同時に、TRHがピログルタミン酸、ヒスチジン、プロリンの3つのアミノ酸から成り、C末端がアミド化されたペプチドであることを突き止めました。この発見により、視床下部が下垂体前葉の分泌を調節する役割を果たしているという仮説が立証されました。

この偉業により、ギルマンとシャリーは1977年にノーベル生理学・医学賞を授与されました。彼らの研究は、内分泌系の理解を深め、ホルモンの相互作用についての新たな知見をもたらしました。

TRHの機能

TRHは、体内におけるホルモン調整の鍵となるホルモンの一つです。特に、甲状腺の機能をチューニングする上で重要な役割を果たします。TSHは甲状腺を刺激し、甲状腺ホルモンの分泌を促進します。これにより、体の代謝やエネルギー生産、成長、発達に関わる重要なメカニズムが調整されます。

また、TRHはストレス応答や生理的な変化に応じて分泌されるため、体のホメオスタシス（恒常性）を維持するうえで重要です。さらに、TRH自体は中枢神経系の神経伝達物質としても機能することが示されており、精神的な状態や行動にも影響を与える可能性があります。

結論

甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンは、視床下部から分泌される重要なホルモンであり、下垂体を通じて甲状腺ホルモンの分泌を調節します。その発見は内分泌学において歴史的なものであり、ギルマンとシャリーの功績は今も多くの研究に影響を与えています。TRHの理解は、ホルモンバランスや体の調整機能を理解するうえで欠かせない要素となっています。

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