男はつらいよ 寅次郎心の旅路

男はつらいよ 寅次郎心の旅路

本作『男はつらいよ 寅次郎心の旅路』は、1989年8月5日に公開された日本映画であり、シリーズ41作目にあたる。ウィーン市長からの招待を受けて、ウィーンを舞台に描かれたこの作品は、時代が平成に変わった後の初の作品でもある。ウィーンの美しい風景や文化を背景に、寅次郎の新しい旅が展開される。

ウィーンの舞台設定は、1986年に市長のヘルムート・ツィルクが訪日した際に『男はつらいよ』シリーズを観て感銘を受けたことから始まった。彼はウィーン市民の気質や風景がシリーズと似ていると感じ、映画制作を誘致した。このため、本作にはウィーンを取り巻く壮大な景観や、クラシック音楽の数々が登場し、『第三の男』や『会議は踊る』へのオマージュが見られる。

劇中、主人公の寅次郎は急ブレーキで座席から投げ出されるところから物語がスタートする。サラリーマンの坂口（柄本明）が絶望的な気持ちで線路上に横たわっていたことがきっかけで、寅次郎は彼の心を癒す役割を果たす。坂口がウィーンに行きたいと話すと、寅次郎は行き先を湯布院と聞き間違え、あっさりと承諾。これがきっかけで二人はウィーンへ旅立つこととなる。

ウィーンに到着した寅次郎は、言語や食文化の違いに戸惑い、最初の3日間はホテルに閉じこもってしまう。一方で、坂口は旅行の中で徐々に元気を取り戻し、現地での生活を楽しむ。寅次郎はツアーガイドの久美子（竹下景子）と出会い、彼女との交流を通して新たな感情や思い出を育む。久美子との会話の中で故郷のことを思い起こし、彼の中に秘めた郷愁が徐々に表れてくる。

久美子の恋人ヘルマンの存在が、物語に複雑さをもたらす。寅次郎は久美子を日本に連れ帰ることを提案するが、彼女の心はヘルマンに対して揺れていた。旅行最後の日、ヘルマンが久美子を引き止め、二人はキスを交わす。これを目撃した寅次郎は、失恋の痛みを抱えながら帰路につくことになる。

帰国後、とらやに戻った寅次郎は旅の話をすることなく、ただ寝てばかりの生活を続ける。その様子を見た家族や仲間は、彼の心に何が起こったのか理解できずに疑問を抱く。後日、坂口が旅行のハイライトを写真で見せることで、さくらは寅次郎の心の内を知ることになる。

最終的に、寅次郎は再び旅に出るが、ウィーンでの出来事は彼にとって深い意味を持った出来事だった。彼のアイデンティティと故郷に対する思いが交錯することで、観客は物語に引き込まれていく。

キャスト

• - 車寅次郎：渥美清
• - 諏訪さくら：倍賞千恵子
• - 車竜造（おいちゃん）：下條正巳
• - 車つね（おばちゃん）：三崎千恵子
• - 諏訪博：前田吟
• - 坂口兵馬：柄本明
• - 江上久美子：竹下景子

この映画は、友情や恋愛、故郷への想いが交錯する感動的な物語であり、ウィーンという新たな舞台によってシリーズに新しい息吹をもたらした作品として評価され続けている。

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