男はつらいよ 奮闘篇

『男はつらいよ 奮闘篇』は、1971年4月28日に公開された国民的シリーズ「男はつらいよ」の第7作目です。本作では、脚本に朝間義隆氏が初めて参加しており、以後シリーズ全作品(第48作まで)の脚本を共同執筆することになります。

物語は、集団就職で故郷を離れる若者たちを励ます寅次郎の姿から始まります。その後、実母であるお菊がとらやを訪れ、寅次郎の独身生活を嘆きます。さくらの寅次郎への深い愛情と、お菊の厳しさ、そして寅次郎自身の複雑な心情が交錯するシーンは、シリーズの中でも特に印象的な場面です。

寅次郎は、一晩の滞在の後、柴又を離れ、静岡県富士市で啖呵売を行います。そこで、彼は津軽弁を話す若い女性・花子と出会います。花子は軽度の知的障害があり、故郷である青森県驫木町に帰りたいと願っていました。寅次郎は、花子の事情を知り、青森への交通費を援助し、弘前までの行き方を教えます。万が一の事態に備え、とらやの住所を書いたメモを渡し、二人別れます。

数日後、花子は柴又のとらやを訪れます。寅次郎も戻ってきて再会を果たすと、とらやの面々は花子の身元を探そうとしますが、寅次郎は自分が面倒を見ると主張します。寅次郎の献身的な姿に最初は戸惑っていた花子も、次第に彼に好意を抱き、「嫁になりたい」と打ち明けます。寅次郎は真剣に結婚を考え始めますが、そのことがお菊にまで伝わったことで、さくらたちは不安を感じ始めます。

ある日、寅次郎不在の間に、花子の小学校時代の教師である福士先生がとらやを訪れます。福士先生は、花子の身元引受人として、愛情深く花子を青森へ連れ帰ります。この事実を知った寅次郎は激昂し、さくらに花子の幸せを問います。さくらは少し迷った後、「福士先生のほうが幸せ」と答えます。失望した寅次郎はとらやを飛び出します。

数日後、とらやに寅次郎からの手紙が届きます。それは遺書とも取れる内容で、とらや一家は不安にかられます。さくらは青森・驫木町へ向かい、福士先生と元気な花子と再会します。福士先生から寅次郎の訪問の様子を聞き、さくらは安堵するものの、まだ不安は残ります。しかし、その後、あるバス停で寅次郎が楽しそうに人々と話している姿を見て、さくらは寅次郎の無事と明るさに安堵します。

本作の見どころは、寅次郎の優しさ、そして葛藤です。彼はいつも軽妙な言葉で人々を笑わせますが、その裏には、孤独や、人の幸せを願う深い愛情が隠されています。花子との出会いをきっかけに、寅次郎は自身の生き方、そして人生の真の意味について深く考えさせられます。また、本作では、青森の美しい風景や、人々の温かさも描かれており、日本の地方の文化に触れることができるのも魅力の一つです。

さらに、本作では、オープニングシーンで船の上から江戸川の土手を映すなど、新たな試みも取り入れられています。また、ラストシーンでは寅さんとさくらが同じバスに乗るという、シリーズでは珍しい演出が用いられています。これらの演出は、物語に深みと奥行きを与え、視聴者の心に強く印象を残します。

音楽も本作の魅力を高めています。テクラ・バダジェフスカ作曲の『乙女の祈り』や、ジョン・P・オードウェイ作曲の『旅愁』など、クラシック音楽が効果的に使用され、シーンに情感豊かな彩りを添えています。

『男はつらいよ 奮闘篇』は、寅次郎の人間味あふれる魅力と、感動的なストーリー、そして美しい映像と音楽が融合した、シリーズの中でも屈指の名作と言えるでしょう。寅次郎ファンはもちろん、初めて観る方にも、強くお勧めしたい作品です。

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