男はつらいよ 寅次郎相合い傘

『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』は、1975年に公開されたシリーズ第15作です。本作では、マドンナとして浅丘ルリ子さんが演じる松岡リリーが再び登場し、寅次郎との再会、そして新たな恋模様が描かれます。

物語は、寅次郎が見る夢から始まります。海賊の船長に扮した寅次郎が、妹チェリーたちを救い出すというコミカルな展開で幕を開けます。その後、とらやにリリーが突然現れます。前作での結婚から2年経たず離婚し、再びドサ回りの歌手として生活しているというリリー。寅次郎は旅に出ていて不在でしたが、リリーは北の方へ行けば寅次郎に会えるかもしれないという希望を抱き、旅に出ます。

一方、青森で寅次郎は、重役サラリーマンの兵頭と出会います。恵まれた地位や財力を持つにも関わらず、自由な生き方を求める兵頭。寅次郎はそんな兵頭に手を焼きながらも、共に函館へ旅をします。そこで偶然にもリリーと再会。３人は意気投合し、楽しい旅を続けます。しかし、小樽に着くと兵頭にはどうしても会いたい人がいることが判明します。それは彼の初恋の人でした。彼女は未亡人になり、女手一つで子供を育てながら懸命に生きていました。その姿を見た兵頭は、自身を「たった一人の女性すら幸せにできない男」だと嘆きます。そんな兵頭に対し、リリーは「女が幸せになるには男の力を借りなきゃいけないと思っているのか」と反論。その発言を「可愛げがない」と寅次郎が咎めたことから、二人は喧嘩別れしてしまいます。寅次郎は、去っていくリリーをどうすることもできませんでした。

柴又に戻った寅次郎は、リリーとの一件を悔やんでいました。そこへリリーが現れ、二人はすぐに仲直り。とらやに居候し始めたリリーと寅次郎の仲睦まじい様子は、近所でも評判になります。喧嘩をしてもすぐに仲直りする二人を見たさくらは、苦労人のリリーなら風来坊の寅次郎をコントロールできるかもしれないと考え、「リリーさんがお兄ちゃんの奥さんになってくれたら」と提案します。リリーは真剣な表情で「いいわよ」と答え、とらやの人々を驚かせますが、帰ってきた寅次郎に「冗談」だと返します。リリーの言葉が本心ではないと悟ったさくらは、すぐにリリーを追いかけるべきだと寅次郎に勧めますが、寅次郎は「あいつはしっかりした女だ。俺みたいなバカと一緒になっても幸せにはなれない」と拒みます。そして、リリーも自分と同じ「渡り鳥」であり、一時的に休んでいるだけだと語ります。この言葉には、寅次郎、リリー、そしてさくらの「定住と漂泊」に対するそれぞれの思いが込められています。

その後、兵頭がとらやを訪れ、リリーを「渡り鳥」に例えた寅次郎を「詩人」だと評します。そして、リリーに結婚を勧めたことを後悔し、二人の関係を壊したのではないかと思い悩むさくらに、「優しい言い方だ」と諭します。一方、寅次郎は再び北海道を旅していました。

本作では、「寅のアリア」「メロン騒動」「相合い傘」など、数々の名場面が生まれました。「メロン騒動」は、兵頭から贈られたメロンをきっかけに、寅次郎とリリーが大喧嘩してしまうというコミカルな場面です。そして、タイトルの由来ともなった「相合い傘」のシーンは、シリーズ屈指の名場面として高く評価されています。

監督は山田洋次、脚本は山田洋次と朝間義隆、音楽は山本直純が担当。キャストには、渥美清、倍賞千恵子、下條正巳、前田吟、三崎千恵子、太宰久雄、佐藤蛾次郎、中村はやと、船越英二、そして浅丘ルリ子が名を連ねています。

ロケ地は、青森県青森市、北海道函館市、小樽市、札幌市、苫小牧市、東京都墨田区、葛飾区など多岐にわたり、美しい風景が映画を彩っています。

観客動員は200万人、配給収入は9億3000万円を記録。また、浅丘ルリ子が毎日映画コンクール主演女優賞、キネマ旬報ベスト・テン主演女優賞、ブルーリボン賞主演女優賞を受賞するなど、高い評価を受けています。

『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』は、寅次郎とリリーの複雑な関係、そして人間の心の機微を繊細に描いた、シリーズの中でも特に印象深い作品です。旅の楽しさ、そして人の心の温かさを感じさせてくれる、何度見ても飽きない魅力的な一本です。

もう一度検索