男性愛

男性愛（だんせいあい）/ 男性向（だんせいこう）

定義

男性愛、あるいは男性向（英: Androphilia）は、主に人間の行動科学分野において、個人の性的指向を表現するために用いられる専門的な用語です。この言葉は、感情的な結びつき、心理的な惹かれ、そして性愛的な欲求といった様々な側面にわたり、その対象が「男性」であるという一点に焦点を当てています。つまり、自身の性別が何であるかにかかわらず、男性に対して継続的に惹かれる性向を指し示します。

用語の背景と意義

歴史的に、人間の性的指向は自己の性別と引力の対象となる性別との関係性に基づいて、異性愛（異性への引力）と同性愛（同性への引力）という二つの主要なカテゴリに分類されることが一般的でした。これは「性別二元論」と呼ばれる考え方に基づいています。

しかし、性の多様性に関する理解が深まるにつれて、このような二分法だけでは捉えきれない複雑な性的指向や、自身の性別が多様である人々（例：トランスジェンダー、ノンバイナリーなど）の性的指向を正確に記述することの限界が指摘されるようになりました。

男性愛という用語は、こうした従来の分類の限界を補うために導入された概念の一つです。自身の性別ではなく、引力の「対象」となる性別（男性）に焦点を当てることで、より包括的な性的指向の記述を可能にします。この視点は、自身の性別を男性、女性といった従来のカテゴリに明確に位置づけていない人々も含め、広範な人々が経験する男性への引力を一つの枠組みで捉えることを可能にします。

男性愛に含まれる人々

男性愛の定義の下では、自身の性別がどのようなものであっても、男性に対して性的な、あるいは恋愛的な引力を感じる全ての人々が含まれることになります。例えば、出生時に女性と割り当てられ、自身を女性と認識しているシスジェンダー女性が男性に惹かれる場合、一般的には「女性異性愛者」と呼ばれますが、男性愛という観点からは「男性愛者」の一例と見なされます。

同様に、出生時に男性と割り当てられ、自身を男性と認識しているシスジェンダー男性が他の男性に惹かれる場合、一般的には「男性同性愛者」（ゲイ）と呼ばれますが、引力の対象が男性であるという点で、やはり男性愛者と言えます。

さらに、自身の性別を男性でも女性でもないと感じている人々（ノンバイナリー、ジェンダークィアなど）が男性に対して惹かれる場合も、彼らの性的指向は男性愛として記述され得ます。このように、男性愛という用語は、自身の性別アイデンティティとは独立して、性的引力の対象を明確にする機能を持っています。

男性愛者であること

男性愛者（または男性向者）とは、前述の定義に合致する性向を持つ個人のことを指します。つまり、感情的、心理的、性愛的な面で男性に対して引力を抱く傾向を持つ人です。この傾向が実際に他者との関係性として表れているか、あるいは単独で心の中に秘められているかに関わらず、男性への愛情、性欲、恋愛感情などを抱いている人は男性愛者と見なされます。これは、性的指向が個人の内面的な性質であり、必ずしも外部への開示や特定の行動を伴うものではないという理解に基づいています。

まとめ

男性愛は、性的指向を引力の対象（男性）に焦点を当てて定義する用語であり、自身の性別を問わず男性に惹かれる全ての個人を含み得る概念です。これは、従来の性別二元論に基づく異性愛・同性愛といった分類を補完し、より多様な性のあり方を記述・理解するための試みとして、特に学術的な文脈や、性的マイノリティに関する議論において用いられることがあります。この用語は、性的指向が多様であること、そして自身の性別や表現のあり方とは独立して存在しうることを示唆しています。

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