町田甲一

町田甲一：日本古代彫刻研究の礎を築いた美術史家

町田甲一(1916-1993)は、日本を代表する美術史家の一人です。日本画家である町田曲江を父に持ち、東京で生まれ育ちました。東京府立第三中学校卒業後、姫路高校へと進学しますが、1940年、卒業を目前に神戸詩人事件に連座し、治安維持法違反容疑で逮捕、18ヶ月間の拘禁を経験するという波乱の人生を送ることになります。

この経験は彼の生涯に大きな影を落としましたが、同時に、社会に対する鋭い洞察力と深い人文主義を育むことにも繋がったと言えるでしょう。釈放後、東京帝国大学文学部美学科に進学し、著名な美術史家である児島喜久雄に師事。卒業後は同大学院に進み、学術研究への道を歩み始めます。大学院在籍中より長尾美術館に勤務しますが、病気により退職。その後、東京教育大学講師、助教授を経て教授に昇格するなど、順調なキャリアを積んでいきます。

彼の研究分野は東洋美術、とりわけ日本古代彫刻史、特に仏像彫刻に集中していました。1988年から編集委員代表を務めた『奈良六大寺大観』(岩波書店)は、その集大成と言えるでしょう。建築、美術に関する写真、解説、文献を網羅したこの大著は、日本の奈良美術史、建築史研究における基礎資料として、現在も高く評価されています。本プロジェクトには多くの若手研究者が参加しており、町田氏の指導力とネットワークの広さがうかがえます。この大規模なプロジェクトの成功は、彼の組織力と指導力、そして研究への情熱の証左と言えるでしょう。

東京教育大学教授在職中にも、多くの論文や著書を発表し、日本の美術史研究に多大な貢献を果たしました。『天平彫刻の典型』、『薬師寺』、『法華寺』など、数々の単著を発表。これらを通して、日本の仏像彫刻の歴史と美を深く掘り下げ、新たな視点からの考察を提供しました。また、分かりやすく魅力的な文章で一般読者にも理解しやすい解説書を数多く執筆し、美術史への関心を高める役割を果たしました。

1974年には名古屋大学教授に就任、1977年に同大学を定年退官した後も、武蔵野美術大学教授として教鞭をとり続けました。1987年に同大学を退任後は名誉教授の称号を得ています。

彼の著作は多岐に渡り、『概説日本美術史』、『日本古代彫刻史概説』、『仏像 その意味と歴史と美しさについて』などは、美術史を学ぶ学生にとって必読書となっています。また、『仏像の美しさに憑かれて』のような随筆集も発表しており、彼の深い造詣と、美術に対する熱い想いが伝わってきます。これらの著作は、専門家だけでなく、一般の人々にも広く読まれ、日本の美術史理解の普及に大きく貢献しました。

町田甲一の研究は、単なる美術史の記述にとどまりません。彼は、仏像彫刻という芸術表現を通して、当時の社会、宗教、文化を深く理解しようとしていました。彼の研究は、美術史にとどまらず、広く歴史学、宗教史、文化史にも影響を与えたと言えます。

1992年には勲三等瑞宝章を受章。1993年に76歳で逝去。日本の美術史研究に多大なる貢献をした町田甲一の功績は、後世に長く語り継がれることでしょう。彼の残した著作は、これからも多くの研究者や美術愛好家によって読み継がれ、研究の礎として活用されていくことでしょう。 彼の生涯は、困難を乗り越え、自身の信念を貫き通した、真の学者の生き様を示すものと言えるでしょう。

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