児島喜久雄

児島喜久雄：白樺派の画家と美術史研究者の軌跡

児島喜久雄（こじま きくお、1887年 - 1950年）は、20世紀日本の美術史に大きな足跡を残した人物です。画家として白樺派に所属した一方、美学、美術史研究者として東京帝国大学（現・東京大学）教授を務め、特にレオナルド・ダ・ヴィンチ研究で世界的な評価を得ました。その多才な才能と幅広い活動を通して、日本の美術界に多大な影響を与えた彼の生涯を辿りましょう。

画家としての出発と白樺派

1887年、東京に生まれた児島は、学習院初等科時代から里見弴と親交を深め、16歳で画家・三宅克己に師事しました。若き日から芸術への情熱を燃やした彼は、回覧雑誌『麦』に参加するなど、活発な活動を見せていました。東京帝国大学文科大学文学科に進学後も、里見弴と共に版画家バーナード・リーチにエッチングを学び、1910年には白樺派の同人となりました。白樺派の活動を通して、同時代の芸術家たちとの交流を深め、独自の芸術観を培っていったのです。第一回二科美術展覧会への入選も、その才能を証明する出来事でした。

欧州留学と美術史研究

1921年から5年間、欧州に留学した児島は、著名な美術史家たちと交流し、古代からルネサンス美術まで幅広く研究を深めました。特にレオナルド・ダ・ヴィンチに関する研究は世界的な水準に達し、高く評価されました。この留学期間中には東北帝国大学助教授に就任、帰国後は東京帝国大学助教授、そして教授へと昇進。彼の研究は西洋美術にとどまらず、多くの弟子たちを育成し、日本の美術史研究に大きな影響を与えました。西洋美術史学者である三輪福松やギリシア美術史研究者である澤柳大五郎は、彼の指導を受けた代表的な人物です。さらに、古代日本史研究者の井上光貞や仏教美術史研究者の町田甲一も児島の影響を受け、その研究姿勢は後進の研究者たちに大きな示唆を与えました。和辻哲郎との交流も、彼の多様な関心の広さを物語っています。

装丁デザインから岩波新書まで

児島の活動は、美術史研究や絵画制作のみに留まりませんでした。彼は書籍の装丁やデザインも数多く手がけ、『白樺』創刊号の表紙デザインや岩波新書の創刊時の装丁を担当するなど、幅広い分野で才能を発揮しました。また、ヴァン・ゴッホの手紙の最初の翻訳者として、『白樺』に発表するなど、翻訳活動にも携わっていました。

晩年と遺産

1950年、心筋梗塞のため亡くなった児島。彼の墓は当初東京都港区南青山にありましたが、2022年に改葬されました。現在、墓石とレオナルド・ダ・ヴィンチに因んだ碑は山梨県北杜市の清春白樺美術館に移設され、多くの人々に彼の業績を伝えています。東北大学附属図書館には、彼の旧蔵書である「児島文庫」が所蔵され、研究者たちの貴重な資料となっています。清春白樺美術館では、彼の作品や資料を展示する企画展が繰り返し開催され、その芸術家としての活動と美術史研究者としての業績を後世に伝えています。

弟子たちへの影響と歴史的意義

児島喜久雄は、画家としてだけでなく、優れた美術史研究者、教育者として、日本の美術界に大きな貢献をしました。彼の弟子たちは、それぞれが日本の美術史研究を牽引する存在となり、彼の影響は現代の美術研究にも色濃く残っています。彼の生涯と業績は、単なる個人の成功物語を超え、日本の美術史研究の発展に不可欠な一頁を刻んだと言えるでしょう。彼の残した著作や資料は、これからも多くの研究者や美術愛好家によって、深く読み解かれていくことでしょう。

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