画家の家族の肖像 (ホルバイン)

ハンス・ホルバインの家族の肖像

「画家の家族の肖像」は、ドイツのルネサンス期に活躍した画家ハンス・ホルバインによって制作されました。作品には彼の妻エルズベット・ビンツェンシュトックと、彼の2人の子供、息子フィリップと娘カタリナが描かれています。ホルバインがイングランドから帰国し、スイスのバーゼルに滞在していた1528年から1529年の間に完成され、現在はバーゼル市立美術館に所蔵されています。

作品の構成

絵画には、エルズベットが娘を膝に乗せ、息子の肩に手を置いて長椅子に座っている姿が描かれています。作品の右下には数字「152」が見え、残りの数字は作品が切断された部分に隠れています。使用された素材は、3枚の紙を重ねて描かれており、右側の2枚が左側の1枚よりも幅が広くなっています。フィリップは横向きに、母親は正面を向いて描かれていますが、エルズベットは特に何かを見つめているわけではなく、フィリップが上方を見つめています。

エルズベットの頭部はボネットで覆われており、その上には黒色の縁取りが施された透明なベールがかかっています。彼女の右手は未完成のように見え、娘カタリナは左を向いて何かを掴んでいる様子が描かれています。この快い光景は、家族の温かい雰囲気を伝えるとともに、画面の一部が欠けていることが、元の構図がより大きかったことを思わせる要素となっています。

美術史的な背景

ホルバインの妻の衣服は、彼が描いた『ソロトゥルンの聖母』の聖母マリアの姿と類似点が見られます。この点において、美術史家アンドレアス・バイアーは、本作品がホルバイン自身の「聖家族」を描いたものではないかと仮定しました。家族は質素な服装をしており、ホルバインがイングランドからもたらした富と対照的です。赤外線リフレクトグラフィーの調査では、フィリップの位置がもっと低いところに描かれていたことが発見され、最初は家族全員を含む大きな構図であった可能性が指摘されています。

影響と変遷

作品の右側に追加されていた別の人物、またはホルバイン自身が描かれていた可能性があるとの推測もあります。さらに、ウィーンのアルベルティーナには、母親と2人の子供に加え、ホルバインの『コリントの遊女ライス』に似た女性を描いた素描があります。ホルバインの作品は、後に続く画家たちに影響を与え、特にハンス・アスパーはこの作品からインスパイアを受け、彼の作品中に子供たちをネコと犬に置き換える形で表現しています。

所有権の移り変わり

この肖像画は、最初はホルバインの妻、エルズベットによって所有されていました。しかし、1543年までには、チューリヒ出身の画家ハンス・アスパーの手に渡ります。アスパーは絵画の売却に関するいくつかの申し出を受けますが、その全てを断りました。アスパーの死後、この作品はバジリウス・アメルバッハの所有となり、最後はバーゼル市によって1661年に購入されました。

結論

「画家の家族の肖像」は、単なる肖像画にとどまらず、ホルバインの深い感情や家族への愛情、当時の生活様式を映し出す貴重な作品です。観る者に家族の絆やその背後にある歴史を感じさせる一枚であり、今もなお多くの人々に感銘を与え続けています。

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