コリントの遊女ライス

『コリントの遊女ライス』について

『コリントの遊女ライス』は、ドイツのルネサンス期に活躍した画家ハンス・ホルバインの作品で、現在はスイスのバーゼル市立美術館に収蔵されています。この作品は、古代ギリシャで高額な料金を請求したことで知られる有名な高級娼婦、コリントのライスを描いています。彼女が古代の偉大な画家アペレスの恋人であったことから、作品のモデルとして選ばれたという見方もあります。

ホルバインは、特に人文主義者たちの仲間の中で称賛され、アペレスと称されることもありました。これによって、彼自身がこの女性を描くことにどのような思いを込めていたのかが興味深く推測されます。この『ライス』には、特にそのモデルとして用いられた女性が、ホルバインの別の作品である『ダルムシュタットの聖母』や『ヴィーナスとキューピッド』にも登場しており、その女性がマグダレーナ・オッフェンブルクであることが分かっています。オッフェンブルクはホルバインの愛人であった可能性が指摘されています。

『ライス』の制作時期は、ホルバインが『ヴィーナスとキューピッド』の1年か2年後とされています。結果的に、これら二つの作品は連作として捉えられることになりますが、初めから二つ目を描く意図があったかどうかは疑問視されています。一部の学者は、モデルの女性を描くことでホルバイン自身とその女性との関係について何らかのメッセージを込めているのではないかと考えています。

しかし、美術史家ピーター・クラウセンはこの見解に対して否定的であり、このような読み解きは「まったくのナンセンス」だとしています。『ヴィーナスとキューピッド』と『ライス』という二つの作品は、共通の色合いを持ち、同じ衣装や背景を描くことで連続性を持たせています。このような技法には、ホルバインがイタリアを訪れた際に影響を受けたレオナルド・ダ・ヴィンチやロンバルディアの壁画家たちのスタイルが見え隠れします。

特にホルバインは、レオナルドのスフマート技法を取り入れ、肌の色合いを細やかに調整しています。さらに、作品の中には金貨のようなものを置く手すり壁が登場し、鑑賞者との距離感を生じさせる効果を狙っています。このような工夫により、ただの娼婦の肖像描写を越え、より深いメッセージを伝える作品となっているのです。

ホルバインの『コリントの遊女ライス』は、彼の持つ技術を駆使した人物画としてだけでなく、画家とモデルとの関係を象徴的に表現した作品として評価されています。

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