畑中蓼坡

畑中蓼坡：演劇と映画を彩る巨匠

畑中蓼坡（はたなか りょうは、1877年5月21日 - 1959年3月1日）は、日本の演劇史、映画史に名を残す演出家、俳優、そして映画監督です。本名は畠中作吉。高知県に生まれ、27歳で渡米、ニューヨークの演劇学校で研鑽を積んだ後、アマチュア劇団に参加し、日系アメリカ人を観客とした舞台活動に励みました。

15年間のアメリカ生活の後、1919年に帰国。新劇運動の隆盛期に、名門劇団「芸術座」に入団しますが、同劇団の解散を機に、新たな劇団「新劇協会」を設立。チェーホフの『叔父ワーニャ』の日本初演など、演出家・俳優として活躍します。この劇団には、上山草人の推薦で伊沢蘭奢が参加するなど、新劇界の才能が集まりました。1920年には、民衆座の女優、水谷八重子主演の『青い鳥』を演出するなど、幅広い作品を手掛けました。

1921年には映画界に進出、国際活映角筈撮影所で小島孤舟原作の『寒椿』を監督。井上正夫、水谷八重子といった当時を代表する俳優を起用したこの作品は、無声映画の名作として高く評価されました。その後も『街の子』など4本の映画を監督。サイレント映画全盛期の日本映画界で、独自のスタイルを築き上げました。

新劇協会解散後は、新国劇に参加。舞台俳優としては、正宗白鳥作『光秀と紹巴』の明智光秀役が当たり役として知られています。戦後、高齢になってからも精力的に活動を続け、77歳から80歳頃までの間、日活映画に11作品に出演。晩年は、高齢にも関わらず様々な役柄を演じ分け、その演技力は高く評価されました。1957年公開の『九人の死刑囚』が、彼の遺作となりました。

畑中蓼坡は、アメリカでの経験と日本の新劇運動への関与を通して培われた、独特の演出感覚と演技力で、演劇と映画の両分野で活躍しました。無声映画からトーキー時代、そして戦後の映画界まで、時代の移り変わりを体現するように活躍し続けた、日本の演劇・映画史における重要な存在と言えるでしょう。彼の活動は、日本の演劇・映画の進化に大きく貢献し、その功績は現在も高く評価されています。

主なフィルモグラフィー

監督作品
『寒椿』(1921)
『街の子』(1924)
『中山安兵衛』(1925)
『ノンキナトウサン 花見の巻』(1925)

出演作品（抜粋）
『あゝ玉杯に花うけて』(1929)
『国定忠治』(1954)
『沓掛時次郎』(1954)
『地獄の剣豪 平手造酒』(1954)
『ソ満国境2号作戦 消えた中隊』(1955)
『沙羅の花の峠』(1955)
『母なき子』(1955)
『ただひとりの人』(1956)
『真昼の暗黒』(1956)
『乳母車』(1956)
『沖縄の民』(1956)
『永遠に答えず』(1957)
* 『九人の死刑囚』(1957) - 遺作

畑中蓼坡の生涯は、激動の時代を駆け抜けた、情熱と才能に満ちた一人の芸術家の物語です。彼の作品は、日本の演劇・映画史に燦然と輝く、不滅の業績として後世に語り継がれていくでしょう。

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