異星の客

異星の客

『異星の客』（いせいのきゃく、Stranger in a Strange Land）は、アメリカの著名なSF作家R.A.ハインラインによる1961年発表の長編SF小説である。この作品はヒューゴー賞やローカス賞を受賞し、数多くの読者に影響を与えてきた。日本では東京創元社から井上一夫訳で刊行され、今なお多くのファンに親しまれている。

作品の背景と成立

この小説の構想は、1948年にハインラインが短編『深淵』（Gulf）を書く際に得たアイデアから始まった。当初、彼は80万語の規模で物語を構築したが、編集者からの指摘を受けて22万語まで圧縮。最終的に17万語に削られて出版されている。アメリカでは「完全版」として知られる22万語の版も流通している。

物語の概要

物語は、火星探査船チャンピオン号が火星に到着し、25年前に消息を絶った探検隊のひとり、ヴァレンタイン・マイケル・スミスを発見するところから始まる。彼は火星の住人によって育てられ、地球人とは全く異なる思想を持つ教養を身につけていた。地球に戻ったマイケルは、彼を理解しようとする友人や恋人、特にジュバル・ハーショーやジリアン・ボードマンと出会い、彼らとの交流を通じて地球人の価値観を学んでいく。

マイケルは、火星人の価値観に基づく「世界の全ての教会」という新しい宗教を立ち上げる。しかし、彼の教えは既存の道徳観やルールに反しているため、周囲から激しい反発と迫害を受けることになる。最終的に彼の教義は誤解され、議論や抗争を繰り広げる中で彼自身が大きな苦しみを味わうことに。

章構成と主要な登場人物

物語は複数の章に分かれており、彼にまつわる「汚れた起源」や「幸福な宿命」といったテーマを持ちながら展開されていく。重要な登場人物には、マイケルの友人・恋人であるジリアン・ボードマンや弁護士であるジュバル・ハーショーがおり、彼らはマイケルの存在を支える重要な役割を果たしている。

宗教と思想

本作で描かれる宗教は、汎神論を極端にまで推し進めたもので、「生きとし生けるものは神である」という考え方が中心に据えられている。この教義は「汝は神なり」という表現で表され、コミュニティ内での共同体生活や快楽主義的な側面も強調されている。信者同士の絆を「水兄弟」と呼ぶなど、独特の風習も描かれる。

社会への影響

『異星の客』は、当初から大きな反響を呼び寄せ、ヒッピー文化の中で広く引用されている。特に「グロク」という言葉がオックスフォード英語辞典に載るほど、社会的な影響を与えた。また、ハインラインの作品が現実の宗教に影響を与え、同名の団体が設立される事態も引き起こした。さらに、市民権運動に影響を与えたとの考えも存在する。

文化的影響

物語の中で描かれたウォーターベッドも注目され、実際にその発明が行われた際、ハインラインの作品が先にこのアイデアを提示していたことが特許審査に影響を与えた事例も知られている。こうした影響から、『異星の客』は単なる文学作品ではなく、文化や社会的現象にまで波及した重要な作品となっている。

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