異物反応

異物反応

体の中に本来存在しないものが入り込んだとき、私たちの体はこれを「異物」と認識し、排除したり無害化しようとします。この過程で起こる一連の免疫応答、特に自然免疫系が関与する炎症反応を「異物反応」と呼びます。異物反応は、体内に埋め込まれた医療用デバイス（生体材料）や、処理しきれない大きな異物に対して特に顕著に見られ、異物を取り囲むように特徴的な細胞が集まるのが特徴です。その中でも、複数の免疫細胞が融合してできる「異物巨細胞」の存在が、この反応の重要なサインとなります。

概要

体が異物に直面すると、まずその周辺で炎症が引き起こされます。これは、異物が引き起こす組織への刺激や、それに反応した細胞から放出される信号物質によるものです。特に、異物の表面には「貪食細胞」と呼ばれる種類の免疫細胞（主にマクロファージなど）が多数集まってきます。これらの細胞は、異物を「食べる」ように取り込もうとしますが、異物が大きすぎて完全に排除できない場合、炎症状態は長期間（通常1週間以上）続くことがあります。このような慢性的な炎症の過程で、体の組織を守るために、異物の周囲にコラーゲンなどの線維成分からなる組織が形成され、異物を体の他の部分から物理的に隔離しようとします。この隔離プロセスは「被包化（ひほうか）」と呼ばれます。被包化が進行する段階では、異物の表面には多数集まったマクロファージとともに、マクロファージが互いに融合してできた巨大な細胞である「異物巨細胞」が観察されます。異物巨細胞は、大きな異物に対処しようとする体の試みを示すものです。

機構

異物が体内に侵入すると、免疫システムの一角である「補体系」が活性化されます。この補体系の活性化によって「アナフィラトキシン」と呼ばれる物質が生成されます。アナフィラトキシンは、アレルギー反応などで知られる「肥満細胞」に作用し、その細胞内に蓄えられている顆粒を放出させます（これを脱顆粒と呼びます）。放出される物質の中には、ヒスタミンなどが含まれており、これらが血管を拡張させたり、他の免疫細胞を呼び寄せたりすることで炎症が引き起こされます。特にヒスタミンには、貪食細胞（マクロファージや好中球など）を異物のある場所へと引き寄せる（走化性）作用があります。

異物表面に引き寄せられた貪食細胞、中でもマクロファージは異物に吸着します。もし異物のサイズが約10マイクロメートルよりも大きい場合など、マクロファージ単独では処理が難しいと判断されると、複数のマクロファージが互いに融合して、巨大な「異物巨細胞」が形成されます。異物巨細胞や、異物に吸着したマクロファージは、異物の表面を自身の細胞膜で覆うようにして、異物と組織の間に小さな閉鎖空間（微小環境）を作り出します。この微小環境内で、これらの細胞は「活性酸素種」などの強力な分解物質を放出し、異物を分解しようと試みます。

同時に、これらの単球系の細胞（マクロファージや異物巨細胞）は、「TGF-β（トランスフォーミング増殖因子ベータ）」のようなサイトカイン（細胞間の情報伝達物質）も産生します。TGF-βは、「線維芽細胞」と呼ばれる細胞に作用し、コラーゲンなどの線維成分を大量に作り出すように促します。この線維成分が集まって硬い膜を形成し、最終的に異物を体の組織から物理的に隔てる被包化が完了します。このように、異物反応は、炎症、細胞の集積、異物巨細胞の形成、そして線維組織による被包化という一連のプロセスを経て進行し、異物による体内への悪影響を最小限に抑えようとする生体防御の仕組みなのです。

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