疵 (映画)

疵 (1988年の映画)

『疵』（きず）は、1988年に公開された日本映画。陣内孝則が主演を務め、梶間俊一が監督を務めました。東映とユピテル・コミュニケーションズ・インターナショナルが製作提携し、東映が配給しました。

概要

前作『ちょうちん』(1987年)での陣内孝則と梶間俊一のコンビが高く評価されたことを受け、ほぼ同じスタッフで製作されました。陣内孝則にとっては『ちょうちん』、『極道渡世の素敵な面々』に続くヤクザ映画への出演となりました。『ちょうちん』は金子正次の遺稿を映画化したものですが、本作は本田靖春のノンフィクション作品『疵／花形敬とその時代』を原作としており、実在のヤクザである花形敬の生涯を描いています。花形敬は、銃や刃物を使わず素手で相手を打ちのめすことから、ヤクザの間で「死神」と恐れられた人物であり、彼をモデルにした作品は数多く存在しますが、実名で登場するのは本作が初めてです。これは、企画段階から参加した花形の兄貴分である安藤昇の後押しによって実現しました。

あらすじ

花形敬は世田谷の旧家出身でしたが、幼少の頃から喧嘩っ早く、小学生時代の喧嘩で自ら左頬を切りつけた傷が、生涯消えることはありませんでした。幼い頃に父親を亡くしますが、母親は洋裁の仕事で敬を育て、自宅の洋館を守り抜きました。母親は敬に強くなるように諭し、拳闘を習わせました。

学生時代は番長として過ごし、転校や退学を繰り返した後、終戦直後の下北沢でチンピラとなります。そこで美佐子と出会い結婚しますが、敬は渋谷を縄張りとするヤクザ「渋谷興業」の安藤昇に気に入られ、組員となります。

美佐子が妊娠した頃、ヤクザの揉め事で殺人を犯し、服役することになった敬。美佐子は、お腹の子どものために離婚し、実家に戻りました。

長い服役生活を終えて出所後、「渋谷興業」に戻った敬は、渋谷で喧嘩に明け暮れる日々を送ります。しかし、当時のヤクザ社会はビジネスを優先する傾向にあり、暴力沙汰は敬遠されていました。そのような変化に不満を感じた敬は、「渋谷興業」の中でも持て余される存在となっていきます。

小学校時代からの相棒で、共にヤクザとなり幹部に昇格していた松田の縄張りを荒らしたことで、松田は窮地に陥りますが、敬に手を出そうとしません。松田の女で姐さん格の里美は子分たちを叱咤し、敬を拳銃で襲わせます。腹に銃弾を受けながらも、病院を抜け出して酒を飲む敬のもとに松田が駆けつけ、言い訳もせずに殴られます。

「渋谷興業」の安藤昇は、大金を借りたまま返済しない会社社長を自ら襲撃し、射殺します。幹部たちは逃亡を余儀なくされ、逃避行の途中で敬は美佐子と再会します。息子は小学4年生になっていましたが、死んだことになっている敬は、親子の名乗りを許されませんでした。

逮捕され、3年余りを服役した後、出所した敬。渋谷で勢力を拡大していたヤクザ「大野組」は、安藤や幹部が出所する前に「渋谷興業」の縄張りを奪おうと、組長代行である敬の命を狙います。敬の身を案じた美佐子は、潜伏先のアパートまで訪ねてきます。

母親の誕生日に実家を訪れ、美佐子や息子とやり直したいと話す敬。美佐子が待つアパートへ帰る途中、「大野組」の刺客に襲われ、33歳という若さで命を落とします。

スタッフ

監督：梶間俊一
企画：安藤昇、千葉弘志
エグゼクティブプロデューサー：渡瀬英陽、翁長孝雄、長谷川安弘
プロデューサー：瀬戸恒雄、佐藤和之、藤井亮樹、小笠原明男
原作：本田靖春
脚本：縞五郎、梶間俊一
撮影：鈴木達夫
美術：桑名忠之
編集：西東清明
音楽：エヴァン・ルーリー
音楽プロデューサー：石川光
主題歌：南佳孝「Paradiso」
助監督：吉崎元

キャスト

花形敬：陣内孝則
兵藤美佐子：藤谷美和子
松田邦雄：ジョニー大倉
吉村貞吉：渡辺正行
里美：芦川よしみ
* 安藤昇：岩城滉一

製作

企画段階で、梶間俊一は、安藤昇に直接会いに行き、映画化の許可を得ました。安藤は『ちょうちん』を観て、梶間のセンスを評価し、快諾したとされています。キャスティングにおいては、陣内孝則をはじめ、多くの人気俳優が候補に挙がりました。陣内は原作を読んだときから花形敬に魅力を感じており、熱演しています。

評価

公開当時から、本作は「新東映やくざ映画路線」と評価されていましたが、今日では東映Vシネマというジャンルを切り開いた「ニューやくざ映画」、「ネオやくざ路線」の一作としても評価されています。

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