病識

病識とは

病識とは、自分自身が病的な状態にあることを自覚している状態を指します。病気であることを認識している状態を「病識がある」といい、認識していない状態を「病識がない（病識欠如）」といいます。病気は身体的、精神的、社会的な生活の不健康のサインであり、早期にサインに気づき適切な対応をすることで、健康な生活を取り戻すことができます。しかし、病識がないと、治療が遅れたり、拒否したりするケースもあります。

病識欠如

通常、人は自分が病気であると認識できますが、客観的に見て病的な状態にもかかわらず、それを自覚できない場合があります。これを病識欠如といい、特に統合失調症の患者によく見られます。統合失調症の場合、現実検討能力の欠如など、さまざまな要因が絡み合って病識が欠如すると考えられていますが、詳しいメカニズムはまだ解明されていません。

否認とスティグマ

精神疾患や依存症の場合、患者自身に病識がないことが多く、自ら進んで病院に行こうとしない傾向があります。そのため、周囲の人が病気に気づいても、患者を病院に連れて行くことが難しく、治療が遅れることがあります。また、病識がないと、治療を拒否したり中断したりすることがあり、病気が悪化する原因にもなります。

精神疾患や依存症の治療では、まず治療を優先することが多いですが、治療が進んでも病識が得られないケースも少なくありません。そのため、退院後に自己判断で治療を中断したり、飲酒をしたりして再発するケースもみられます。そのため、患者だけでなく、周囲の人の病識も重要になります。精神疾患に対する差別意識から、家族が患者の病気を認めようとしないこともあり、治療開始の遅れにつながっています。依存症についても、「本人の責任」と捉えられがちですが、病気であることを認識し、周囲がサポートすることが重要です。

内科系疾患と精神科系疾患

内科系疾患では、健康診断で異常を指摘されても、症状がない場合、日常生活に影響が及ぶことを恐れて病気を認めないことがあります。一方、精神科系疾患では、病気に対する差別意識から、病感があっても病識に至らないケースが多くみられます。特に統合失調症は、発症率が決して低くないにもかかわらず、患者自身が病識を持てないことが多い病気です。統合失調症と双極性障害の区別が難しい場合もありますが、病識の有無が判断材料の一つになります。統合失調症は病識がない場合が多く、双極性障害は重症であっても病識がある場合が多い傾向にあります。

精神疾患の場合、病識があっても正しい病識がない場合があります。例えば、統合失調症の患者が、自分が躁うつ病だと誤って認識しているケースです。統合失調症は誰でもかかる可能性のある病気であり、正しい病識を持って治療をすれば、社会復帰も十分に可能です。うつ病が「心の風邪」と認識されるようになったように、統合失調症も誰でもかかりうる病気として、正しく理解される必要があります。双極性障害でも、躁状態を心地よく感じ、病気だと認識しない患者がいるため、患者教育による病識の向上が重要になります。

精神疾患では、患者自身の病識がないだけでなく、周囲の人の病識の欠如も問題となります。特に統合失調症やアルコール[[依存症]]では、周囲が精神疾患を認めようとしないため、治療が遅れるケースがあります。初期症状を放置しておくと、症状が悪化して取り返しのつかない事態になることもあります。第三者が患者の異変に気づき、家族に病識を持たせることが大切です。発達障害の場合、低年齢で発症するため、家族の病識が特に重要になります。軽度な発達障害は気づきにくいですが、適切なサポートと訓練で社会適応が可能になります。早期に病識を持ち、適切な対応をすることが重要です。

精神疾患は見た目ではわかりにくいこともあり、初期症状では本人や家族が気づかないこともあります。しかし、病識がなくても病感があれば、相談することで早期に治療を開始できます。早期治療であれば、生活環境を整えるだけで改善するケースもあり、予後も良好です。重症化した場合でも、適切な薬物治療で社会生活を送ることができます。自己診断は危険なので、医療機関を受診して正しい病識を得ることが重要です。日本では、精神保健福祉法により、国民の精神的健康が義務付けられており、各自治体で相談窓口が設置されています。

精神保健福祉法では、病識欠如のために治療を拒否する患者に対して、特定の要件を満たす場合に強制入院による治療が認められています。

統合失調症における病識

統合失調症の発症初期には、漠然とした違和感を感じ、病識があることもあります。しかし、治療を受けずにいると、現実検討能力が低下し、自分の感覚を合理的に解釈して病気ではないと判断するようになります。妄想や幻覚が現れるようになると、病識は完全に失われてしまいます。この段階で、ようやく周囲が患者の異変に気づくことが多いですが、患者本人は病気を否定するため、治療が困難になります。早期に治療を開始すれば、生活環境の改善だけで済むこともありますが、急性期以降に治療を開始する場合は、まず治療を優先し、その後時間をかけて病識を持たせる必要があります。病識を持てるようになったら、回復の指標と見なされますが、過去の自分を振り返って苦しみを覚え、自殺のリスクが高まるため注意が必要です。社会生活を送れるまで回復しても、病識を持たない患者もいますが、無理に病識を持たせる必要はありません。治療を中断することの方が危険なので、周囲のサポートが重要です。

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