発心門王子

発心門王子の歴史と意義

発心門王子（ほっしんもんおうじ）は、和歌山県田辺市本宮町に位置する神社の旧跡で、その歴史は長く、九十九王子の一つにも数えられています。ここは国の史跡「熊野参詣道」の一部として2000年11月2日に指定され、また1967年4月14日には県指定の史跡としての位置づけも受けています。

発心門の位置とアクセス

発心門王子へ訪れるためには、まず三越峠から音無川の源流に沿った谷川を進む必要があります。猪鼻王子を超えると、道は坂道になり、邸を離れた小渓流が目の前に広がります。その坂を登り切ると、鳥居（発心門）が立っており、その先に発心門王子の社地が見えてきます。

発心門とは

「発心門」という名称は、山岳信仰における四門修行に由来しています。四門修行では、山上の聖地に達する過程で、発心・修行・等覚・妙覚という4つの門を通り抜けることによって悟りが得られると考えられています。特に発心は、仏道に入ることを決意する瞬間を指し、発心門はその聖域への入口を象徴しています。天仁2年（1109年）の藤原宗忠の参詣記によれば、この場には大鳥居が存在し、参詣者は祓いを行ってからその鳥居を通過すると伝えられています。

古文書に見る発心門王子

発心門王子の古い様子は、建仁元年（1201年）の藤原定家による参詣記に詳細に記されています。定家は後鳥羽院とともに訪れ、彼の言葉を借りると、神社は非常に荘厳で、周囲の木々は紅葉で彩られ、風に舞い散る様子が美しいと描写されています。このように、発心門王子は古くから信仰の対象となっており、その美しさに感銘を受けた多くの参詣者が訪れていました。

中世から近世への変遷

14世紀に入ると、発心門王子は五体王子の一つとして認識されるようになります。仁和寺に保存されている「熊野縁起」には、初めて発心門王子が五体王子として記されており、以来、熊野詣が衰退するまでの間、この地は重要な信仰の場として機能していました。しかし、元禄年間に編纂された地誌『紀南郷導記』では、発心門が昔の門の跡であり、かつては他の門も存在したとの解釈が示されています。実際には、そのような記録を裏付ける証拠は見つかっておらず、この説は後年の修験道の潮流から結びつけられたものと考えられています。

江戸時代に入ると、発心門王子は重要な社ではあったものの、すでに信仰の中心としては影が薄くなっていたとされています。享保年間（1716年～1736年）には紀州藩の命令により再建され、本宮大社の末社となりますが、その後、主な参詣ルートが湯の峰や赤木越に移るにつれ、再び寂れました。近代に入ると、1907年には本宮町萩の三里神社に合祀され、その際に社殿が移築されたようです。この移設に際して、王子神社遺跡の石碑も建てられ、今でもその姿を見ることができます。現在の社殿は1990年に再建されたものです。

南無房堂址の存在

発心門王子の後方には南無房堂（なむぼうどう）または南無房宅（なむぼうたく）と呼ばれる尼庵があり、ここに宿泊した藤原定家もいます。この場所は、彼にとって旅行中の安らぎの場であったようですが、彼が落書きをしたことで後から困惑した経験も持つ場所でもあります。現在では、整備された土地に説明版が立てられており、その形式を保っているのです。

アクセス情報

発心門王子へのアクセスは、JRきのくに線の紀伊田辺駅から龍神自動車の路線バスを利用し、約2時間30分で「発心門王子」下車後、徒歩5～10分です。また、新宮駅から奈良交通などのバスを経由し、「本宮大社前」で乗り換え、約15分の距離になります。発心門王子の魅力は、歴史的な背景だけでなく、その美しい自然環境や人々の信仰の場としての重要性にもあります。

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