九十九王子

九十九王子について

九十九王子（くじゅうくおうじ）とは、熊野古道沿いに点在する神社の一群を指し、12世紀から13世紀にかけて急速に形成されました。この神社群は主に皇族や貴人の参詣の際に、霊的な導きを提供した熊野の修験者たちによって誕生しました。参詣者の無事や保護を祈り、紀伊路と中辺路に沿って配置されています。

歴史の歩み

九十九王子の「王子」という名称の初出は、10世紀後半から11世紀半ばに成立したとされる増基の『いほぬし（庵主）』という文書に記載されています。ここに登場する「わうじのいはや（王子の岩屋）」がその例です。さらに、1082年には藤原為房の日記『大御記』に日根王子に関する奉幣の記録があり、11世紀には既に王子社が存在していたことが確認できます。

12世紀に入ると、新たな王子社が次々と設置され、13世紀にかけてその数は増加しました。これが最盛期における王子社の急増を促進したのですが、短命の社も少なくありませんでした。その後、鎌倉時代に入ると、熊野詣の客層が変化し、参詣自体も減少するにつれ、多くの王子社は衰退していく運命を辿りました。

王子という存在

王子は、参詣の道中で儀式を執り行うための場所であり、主要な儀式には奉幣や経供養が含まれます。これらの儀式は神仏混淆的な性質を持っていましたが、熊野三山を遥拝する形跡は資料上確認されていません。また、帰路において物品の補給が行われたという説も否定されていることから、王子社の役割はより霊的な庇護を求める場所であったことが示唆されています。

王子の成立は、熊野詣の案内役であった修験者によるものであり、元々は地域住民が祀る様々な神々を王子と認定したのは、熊野詣を推進する彼らでした。この際、王子という名称には、修験道の信念に基づいた神仏の守護を象徴する意味が込められていると考えられています。熊野修験は、院政期以降に皇族や貴族が集うことが多く、九十九王子が紀伊路や中辺路に集中し、大量に出現する要因となりました。

五体王子の存在

九十九王子の中でも特異な存在として「五体王子（ごたいおうじ）」があります。これは、熊野三山の主神の御子神や眷属神として尊崇される神々を祀る神社で、特に五所王子と呼ばれる神々（若一王子、禅師宮、聖宮、児宮、子守宮）の神社が該当します。これらの神社では舞や神楽、猿楽などの芸能が行われ、他の王子社と異なる趣きを持つとされています。ただし、五体王子の定義には解釈の相違があり、また他の王子でも同様の祭りが行われているため、この点に関しても一概には言えません。

大辺路の王子社

九十九王子の定義から派生して、大辺路に存在するいくつかの神社も「王子」と名乗りますが、これらは熊野とは直接の関係がないため、九十九王子には含まれません。大辺路の王子社に関しては、別途詳細なリストが存在します。

九十九王子の一覧

九十九王子という名称は、実際に99社が存在するわけではなく、その数が非常に多いことを比喩的に表現しています。記録に残る王子社の数は、時代や文書によって異なりますが、最盛期には約80社が数えられました。現存するものや所在地が判明している神社を含めると、合計で101社とされ、近世以降に建立された神社も含まれています。

このように、九十九王子は熊野古道や熊野信仰、修験道などの文化的背景を反映した、重要な精神的拠点であるといえるでしょう。

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