白井滋

白井滋博士：サメ研究に捧げた生涯

白井滋博士（1957年-2020年）は、日本を代表する魚類学者の一人であり、特にサメ類の研究で知られています。音楽にも造詣が深く、若き日はバンド活動や演劇にも携わるなど、多様な才能を開花させた人物でした。1991年に北海道大学大学院水産学研究科博士課程を修了後、水産庁西海区水産研究所研究室長を経て、東京農業大学教授に就任。

幅広い研究テーマ

白井博士の研究は多岐に渡り、生物多様性や分類学を主なテーマとしていました。中でも、板鰓類（サメ類とエイ類）の分類学的研究は、その中心的な仕事でした。彼は、ハタハタ類の生物地理学的研究や、日本海の形成過程を化石種であるバイガイから解明しようとするなど、海洋生物学の様々な分野に貢献しています。

サメ類の分類：独創的な仮説とその後

サメとエイの分類については、従来からサメとエイは大きく異なるグループであるという説が広く受け入れられていました。しかし、白井博士は、解剖学的特徴を詳細に比較検討する分岐分類学的手法を用いて、エイ類がサメ類の一群であるという独自の仮説を提唱しました。この仮説は、エイ類がノコギリザメやカスザメのようなサメ類から進化したというもので、学界に大きな衝撃を与えました。この革新的な研究成果により、アメリカ合衆国の学会でスイト賞を受賞する栄誉に輝きました。

しかし、その後、ミトコンドリアDNAなどの分子系統学的研究が進展するにつれ、従来の説、すなわちサメ類とエイ類はそれぞれ独立した系統であるという考え方が支持されるようになりました。結果として、白井博士の仮説は、新たな知見によって否定されることとなります。科学の進歩とは、このように古い説が覆され、より正確な理解へと向かう営みであると言えるでしょう。

新種の記載

白井博士は、分類学的研究において、リュウキュウカラスザメ（Etmopterus bigelowi Shirai & Tachikawa, 1993）やオオカスミザメ（Centroscyllium excelsum Shirai & Nakaya, 1990）など、複数の新種のサメ類の記載にも貢献しました。また、現在ではトラザメのシノニムとされているイズハナトラザメの記載にも携わっています。これらの業績は、サメ類の多様性解明に大きく貢献しました。

献名

白井博士の研究業績を称え、2020年に記載された新種のサメ、ヒレタカツノザメ（Squalus shiraii Viana & Carvalho, 2020）は、博士への献名として命名されました。これは、彼のサメ研究への多大な貢献が、後世にまで記憶される証と言えます。

まとめ

白井滋博士は、音楽家としての才能を持ちながらも、魚類学者として類まれな業績を残しました。彼の研究は、常に新しい知見を求め、時には既存の考え方を覆す挑戦を続けました。仮説が否定されたとしても、その探究心と、サメ類の研究への情熱は、多くの研究者たちに刺激を与え続け、日本の海洋生物学の発展に大きく貢献しました。彼の名前は、これからもサメ研究の歴史に刻み込まれ続けるでしょう。

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