白樺派教育

白樺派教育の概要

白樺派教育（しらかばはきょういく）は、1910年に創刊された武者小路実篤が中心となった文学同人誌『白樺』から影響を受けた一連の教育活動を指します。この教育運動は、人道主義を基盤にしており、特に長野県を中心に展開されました。大正自由教育の流れのひとつとして位置づけられ、学問の自由や個人の自発性を重要視するものでした。

長野県での発展

1914年に長野県の諏訪教育会が主催した泰西名画展覧会に、武者小路をはじめとする白樺派のメンバーが訪れたことがきっかけで、この地域で白樺派教育が広がりを見せました。その後、柳宗悦や岸田劉生などの白樺派のメンバーによる展覧会や講演会が各地で開催され、教員たちに大きな影響を与えました。特に、中村亮平や赤羽王郎といった熱心な信奉者が現れ、彼らは旧来の教育から脱却し、児童の自発性を重視する新しい教育運動を推進しました。

教科書に依存せず、内外の文学作品を教材にし、児童が独自の創作や鑑賞を通して個性を育むことが重視されました。しかし、この革新は多くの反発を受けました。地域の保護者や伝統的な価値観を持つ住民からは、白樺派教育が「気分教育」として批判されることがありました。特に新田次郎はこの「気分教育」を白樺派教育の亜流と位置づけ、警鐘を鳴らしています。

教育運動の衝突と衰退

白樺派教育は、県の当局とも緊張関係を招き、戸倉事件や倭事件といった教員が処分される事態を引き起こしました。赤羽は戸倉事件により教壇から追放され、雑誌『地上』を創刊しましたが、1921年には廃刊に追い込まれ、その後白樺派教育は衰退の一途をたどります。

この時期の動きを描いた作家の新田次郎は、1914年に発生した木曽駒ヶ岳での遭難事故を題材にした小説『聖職の碑』の中で、白樺派教育とそれに反発する保守的な教師たちの対立を描写しています。彼は巻末の取材記においても白樺派教育に関する問題を取り上げていますが、山岳遭難の原因を調査する立場からは、教育運動の対立が遭難事件にどう影響したかは評価が分かれていると指摘しています。

結論

白樺派教育は、大正期における革新的な教育運動の一環として、地域の教育システムに変革をもたらそうとしましたが、保守的な反発や制度的な制約によってその存続が困難になりました。それでも、個々の自発性を重視する姿勢や、多様な教材を用いた教育実践は、その後の教育のあり方に影響を与え続けています。

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