戸倉事件

戸倉事件の概要

戸倉事件は、1919年2月に長野県埴科郡の戸倉村、現在の千曲市に位置する戸倉小学校で発生した重要な教育に関わる事件です。この事件は、自由教育を支持する若手教員と村民との間で生じた激しい対立を背景にしています。近代日本の教育制度における自由主義的な動きが、地域社会の伝統や価値観とどのように対立したのかを示す一例です。

事件の発端は、戸倉小学校における教育方針の変更にありました。特に、白樺派教育を支持する教員たちが、新しい教育理念を採用し、従来の教育スタイルを否定し始めました。これが村民に不安を与え、結果的にキリスト教や社会主義との関係を疑問視される要因となりました。

1918年11月、学校が新たに児童図書を導入する際に、必要な手続きなしに廃棄予定の書籍をおろしたことが村役場で問題にされました。また、1919年の正月に行われた書初めでは、大正の元号ではなく西暦を用いるように指導したことが村民の反感を買いました。この年の書初めにおいては、ウィリアム・ブレイクの言葉がキリスト教的な文脈で解釈され、さらなる誤解を生む原因となりました。これらの出来事が積もり積もって、教員や教育方針に対する反対意見が強まり、村役場や村会を交えた激しい衝突が発生したのです。

その後、1919年の2月に長野県会で議論が持ち上がり、議員の山本聖峰は戸倉小学校の教員の中から「不徳」とされる者の排除を求めました。また、彼が主筆を務める「長野新聞」でもこの問題が取り上げられ、教員の処罰を求める声はますます強まりました。

この影響を受け、長野県知事の赤星典太は、郡視学を派遣し、調査を実施しました。結果として、2月19日には戸倉小学校の主な教員である赤羽王郎ら2名が退職させられ、1名が休職となる決定が下されました。しかし、村民たちはこれに納得せず、問題の解決を求めて更なる圧力をかけ続けました。最終的には、中谷勲という教員を他所へ転任させることで事態が収拾し、残る5名の教員については譴責の処分が下されました。

なお、中谷はその後、南安曇郡の倭村にある倭小学校に転任した際にも同様の問題が発生し、再び処分を受けることとなりました。このように戸倉事件は、当時の教育改革と社会の反発が交錯した複雑な事件であり、教育政策における自由と伝統の対立を浮き彫りにしています。

参考文献

• - 『長野県百科事典』（補訂版）信濃毎日新聞社、1981年。
• - 『長野県史 通史編 第8巻（近代 2）』（長野県 編）長野県史刊行会、1989年。
• - 『郷土歴史人物事典 長野』（古川貞雄 編著）第一法規、1978年。

関連項目

• - 長野県史
• - 川井訓導事件

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