白蟻の巣

白蟻の巣

三島由紀夫による戯曲『白蟻の巣』（しろありのす）は、彼が劇作家としての地位を確立した作品であり、1955年に初めて上演された。この戯曲は、ブラジルにあるコーヒー農園を舞台に、愛憎や嫉妬、寛容さの根底にある人間の脆さを描いている。

概要とあらすじ

物語は、ブラジルのサンパウロ郊外で暮らす刈屋義郎とその妻・妙子の周囲に展開する。戦後の日本から移住したこの夫婦は、財産を失い、刈屋邸を引き継いだ。農園では、使用人の百島健次とその新妻、農園の支配人、大杉といった人物たちが共同生活を営んでいる。

妙子と百島は、かつて心中未遂を果たしており、刈屋は彼を運転手として容認している。そのため、刈屋は周囲から穏やかで寛大な人物として尊敬されている。だが、百島の妻・啓子は、夫の過去を知りながら結婚し、タブーを抱える心の葛藤に苦しむ。

物語が進むにつれ、啓子は夫と妙子の関係に対して嫉妬し、二人が再び心中未遂を企てれば彼女たちが追い出されることを望む。刈屋は啓子の提案に興味を持ち、リオ・デ・ジャネイロへ旅行することになる。彼の留守中、妙子は刈屋の寛大さの中で苦しむ一方、百島とは接触を図るが、進展はない。

人間関係の複雑さ

刈屋と啓子の関係も一筋縄ではいかない。啓子は刈屋に対して強い感情を抱くようになり、さらには二人の実状を暴くために彼に接触を試みる。その後、刈屋が帰宅すると、啓子は彼の寛大さを非難する一方、逆に再び彼に愛を告白しようとする。

一方、百島は啓子の期待を裏切り、再度心中に踏み切ることを決意。登場人物たちの心情や行動は複雑に絡み合い、最終的には刈屋の優しさが二人を破滅へと導いていく。啓子からの圧力もあり、刈屋は百島と妙子との間に起きた出来事に対して冷静さを失っていく。

作品の評価

『白蟻の巣』は、三島の初の長編戯曲として文芸界で高く評価されており、岸田演劇賞を受賞した。福田恆存や北原武夫、吉田貞司らが、三島の他作品に劣らない高い水準に達していると賞賛している。作品全体は、人道主義や世俗的美徳が蔓延る社会における人間の喪失を象徴しているとされ、三島の哲学的視点が反映されている。

まとめ

『白蟻の巣』は、三島由紀夫が創り出した心理劇であり、登場人物たちの感情が緊密に絡み合うことで、独特の緊張感と衝突を生み出している。この能力は、三島が描く戦後日本の精神的な背景を映し出しており、時代の変わり目における人間の在り方を問い直す作品といえる。

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