白造紙

平安時代の貴重な文献『白造紙』と『簾中抄』

平安時代の歴史や文化を知る上で貴重な資料である『白造紙』は、同時代の故実書『簾中抄』の異本と考えられています。歴代天皇に関する記述などから、正治年間（1199年～1201年）頃の成立と推測されています。

元々は高野山正智院に所蔵されていましたが、調査のため東京帝国大学国語研究室が借り受けていた際に、1923年の関東大震災で焼失。現在では、震災前に撮影された写真だけが現存しています。にもかかわらず、『白造紙』は、その内容から注目を集めています。特に、含まれている『源氏物語』の巻名目録は、現存する最古のものとされ、学術的な価値は非常に高いと言えるでしょう。

『白造紙』の存在を広く知らしめたのは、国文学者の橋本進吉です。彼の研究によって、『白造紙』に含まれる『源氏物語』巻名目録の重要性が明らかになりました。

『白造紙』と流布本『簾中抄』の相違

現在一般的に知られている『簾中抄』は、南北朝時代まで書き継がれ、江戸時代に複数の写本を校合して作成されたものです。しかし、『白造紙』とこの流布本では、収録されている項目に違いが見られます。単純に一方から他方が派生したのではなく、共通の祖本からそれぞれが独立して発展した可能性が示唆されています。

近年、冷泉家時雨亭文庫で発見された、文永年間（1264～1274年）成立と見られる『簾中抄』の写本は、流布本とは異なるものの、『白造紙』の内容と比較的近い部分があり、今後の研究に期待が持たれています。

『簾中抄』：平安時代の百科事典

『簾中抄』は、「故実書」と呼ばれるジャンルの書物です。故実書は、昔の百科事典と説明されることもありますが、様々な事物の名前を順番に並べただけのものが多く、簡単な説明が添えられている程度です。詳細な解説はほとんどありません。そのため、事物の意味や内容を調べるための書物というよりは、名前や表記を確認するための便覧といった性格を持っています。

『簾中抄』は、平安時代末期の歌人、藤原資隆が八条院のために著したとされています。故実書の中でも比較的普及しており、『二中歴』などの後世の故実書にも大きな影響を与えています。現在広く流通している『簾中抄』は、複数の写本を底本として校合し、明治時代に出版された『改定史籍集覧』に収録されたものです。

『白造紙』に含まれる『源氏物語』巻名目録「源シノモクロク」

『白造紙』には、「源シノモクロク」と題された『源氏物語』の巻名目録が含まれています。これは、現存する最古の『源氏物語』巻名目録であり、写真版でしか確認できませんが、その内容は非常に貴重です。

「源シノモクロク」は、54帖の巻名をほぼ現在の順序で記していますが、いくつかの誤記や独自の表記が見られます。例えば、「若菜」を上下で1帖と数えたり、「雲隠」を1帖として数えたり、巻数の数え方に独自の特徴が見られます。また、宇治十帖については、「ウチノミヤノ」として改めて巻数を数えているなど、独特の構成となっています。

これらの特徴は、『源氏物語』の成立過程や、当時のテキストの流布状況を理解する上で貴重な手がかりとなります。現在では失われた巻名なども記されており、今後の研究において、重要な役割を果たすことが期待されています。

まとめ

関東大震災で焼失した『白造紙』は、現存する写真と、その中に含まれる最古の『源氏物語』巻名目録「源シノモクロク」によって、その存在と価値が確認されています。『簾中抄』との比較研究を通じて、『白造紙』は平安時代の文化・歴史を理解するための重要な資料であり続けるでしょう。

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