雲隠

雲隠（くもがくれ）

「雲隠」は『源氏物語』の中の巻名の一つであり、光源氏の物語の流れの中で独特な位置を占めています。この巻は、他の巻の間に位置しており、その内容が散逸したと考えられています。一般的には「幻」と「匂宮」という巻の間に挟まれているため、物語の時系列においても重要な役割を果たしていると言えます。

概要

「雲隠」については、さまざまな解釈が存在します。一説によれば、これまでの巻には本文があったが、今は失われてしまったというもの。また、元々この巻は巻名だけで内容が書かれなかったという見解もあります。光源氏の死や出家が描かれる可能性があり、その影響を受けた人たちが出家する様子などが考察されています。

「雲隠」は、前巻の「幻」と次巻の「匂宮」までの8年間で起こった出来事を反映し、光源氏の人生の終わりと新たな時代の幕開けを象徴する重要な道具立てを提供します。実際、この期間に光源氏の友人や同時代の人物たちが次々に世を去り、彼が出家し隠棲する姿が描かれているため、世代交代の重要性がさらに際立っています。

この巻名は『源氏物語』を数える際に含めるかどうかで解釈が分かれます。中世以前の文献では「雲隠」を含む数え方が一般的でしたが、近世以降では含めない傾向があります。この違いは、物語の受容や理解に影響を与える要因と言えるでしょう。

古注釈の言及

「雲隠」については、古くからさまざまな注釈がなされています。例えば、『源氏釈』では「廿六」として言及されており、また『白造紙』には「廿六クモカクレ」と記録されています。一方、『異本紫明抄』では「光源氏物語巻廿六雲隠は元々存在しない」とされており、一部の古文書にはこの巻の存在が確認できないとされています。

中でも『原中最秘抄』では、光源氏の死を描いたこの巻が、内容を読んだ者たちが世をはかなんで出家することから、天皇の命によって内容が封印または焼却されたという伝説が記されています。このように、「雲隠」という巻は、その存在自体が多くの謎に包まれていることが窺えます。古文書の中にはこの巻の内容が秘密裏に存在するという伝承も残されており、失われた物語に想いを馳せることができます。

補作

「雲隠」の内容を補うために、さまざまな補作も作られています。代表的なものには、「雲隠六帖」という室町時代の作品があり、この中で光源氏の出家や失踪が語られています。また、フランス作家マルグリット・ユルスナールによる「源氏の君の最後の恋」も、光源氏の最期を描いた短編として知られています。このように、現代でも「雲隠」を題材にした作品は数多く存在し、数世代にわたって人々の想像力を刺激してきました。

「雲隠」は、ただ巻名として語られるだけでなく、掲げられたテーマや時代背景など多段階にわたる解釈が可能で、今なお文学としての魅力を保っています。

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