百万人の音楽

『百万人の音楽』（ひゃくまんにんのおんがく）は、日本のラジオ局であるTBSラジオで、1967年 4月16日から1990年 9月30日まで、およそ23年半にわたり放送された長寿音楽番組です。サントリーが一社提供を務め、クラシック音楽の世界を広く一般の聴取者に届けました。

この番組は、単に音楽を流すだけでなく、パーソナリティとゲストとの対話を通して、クラシック音楽の多角的な魅力に迫る形式を採用していました。初期のパーソナリティは、作曲家として名高い芥川也寸志と、女優の野際陽子が務めました。彼らは、クラシック音楽に造詣の深い各界の著名人や、日本で活躍する優れたクラシック演奏家といったゲストをスタジオに迎え、楽曲の背景、作曲家の人物像、演奏技法、あるいは音楽を取り巻く文化や社会といった、幅広いテーマについてトークを展開しました。この知的ながらも親しみやすい語り口が、多くの音楽ファンだけでなく、クラシック音楽に馴染みの薄かった人々をも惹きつけました。

番組は長期間にわたって放送されましたが、その歴史の中で大きな転換期を迎えました。番組開始から22年目にあたる1989年 1月31日に、長年パーソナリティとして番組の顔であった芥川也寸志が逝去しました。彼のパートナーであった野際陽子も、そのおよそ2ヶ月後の同年4月9日の放送をもって番組を降板しました。その後、番組は落語家の春風亭小朝に引き継がれることとなり、1989年 4月16日から新たな体制で放送が続行されました。この時期、番組名を「おしゃれクラシック」に変更する案も検討されたようですが、最終的には『小朝の百万人の音楽』というタイトルで放送が続けられ、番組のアイデンティティを保ちつつ、新しい時代に入りました。

放送時間については、TBSラジオでは何度か変更がありました。番組開始当初の1967年 4月16日から同年9月24日までは、毎週日曜日の23時10分から24時05分にかけて放送されていました。その後、1967年10月1日からは、最終回を迎えるまで毎週日曜日の23時05分から24時00分という時間帯で定着しました。

また、『百万人の音楽』はTBSラジオでの放送にとどまらず、全国のJRN系列の民放AMラジオ局にもネットされていました（一部例外あり）。例えば、朝日放送（現在のABCラジオ）では、全期間を通して日曜日の朝8時から放送されるなど、各ネット局の編成に合わせて異なる時間帯で届けられました。他にも、北海道放送、中部日本放送（現在のCBCラジオ）、RKB毎日放送では1976年10月10日から番組終了までネットされ、琉球放送（現在のRBCiラジオ）でも一時期、土曜日の夜に放送されていましたが、こちらは途中で打ち切りとなった記録があります。このように、全国各地のリスナーが、それぞれの地域の放送局を通じて番組を聴くことができました。

番組で取り上げられた内容は非常に多岐にわたります。特定の楽曲や作曲家の特集はもちろん、日本の現代音楽に焦点を当てたり、国内外の著名な音楽家や文化人をゲストに迎えて、その音楽観や人生哲学に迫ったりしました。例えば、黒柳徹子氏、寺山修司氏、谷川俊太郎氏、冨田勲氏、山本直純氏といった各界の著名人から、朝比奈隆氏、山田一雄氏、團伊玖磨氏、岩城宏之氏といった指揮者や作曲家まで、錚々たるゲストが出演し、番組に彩りを添えました。また、日本人作曲家の作品紹介にも力を入れており、黛敏郎、伊福部昭、松村禎三、矢代秋雄、自らパーソナリティを務めた芥川也寸志自身の作品など、多岐にわたる作品が紹介されました。音楽賞受賞記念コンサートの模様や、サントリーホール開場記念の演奏会といった、特別なイベントを取り上げた企画も数多く放送され、番組の歴史に深みを加えています。

1990年 9月30日、惜しまれつつ『百万人の音楽』は23年6ヶ月の歴史に幕を閉じました。この番組が、多くの人々にとってクラシック音楽への扉を開くきっかけとなり、また長年にわたり音楽を愛する人々の知識欲と感動を満たし続けた功績は大きいと言えるでしょう。その後のTBSラジオでは、この番組終了から18年を経て、クラシック音楽番組『OTTAVA con brio』が放送されるなど、形を変えながらもクラシック音楽をラジオで伝える試みは続いています。

もう一度検索