的場中

的場 中

生涯と業績

的場 中（まとば なか）は、安政3年10月12日（1856年11月9日）に伊勢国山田（現在の三重県伊勢市）に生を受け、昭和8年（1933年）4月20日にその生涯を閉じた日本の高名な冶金学者であり、工学博士です。日本の近代化が進む黎明期において、冶金学の教育と研究の分野で顕著な功績を残しました。

彼の学問の出発点は、近代日本の工業教育の中核を担った工部大学校にありました。明治15年（1882年）、同校の鉱山学科を卒業し、専門知識を深めました。卒業後は、母校である工部大学校で助教授として教壇に立ち、後に東京帝国大学工科大学の助教授も兼任するなど、教育者としてのキャリアを積んでいきました。

明治23年（1890年）から明治26年（1893年）にかけての約3年間、的場中は冶金鉱山学の最新の研究を学ぶため、ドイツへの留学を敢行しました。当時の日本にとって、欧米の先進技術や研究手法を習得することは急務であり、彼の留学は日本の冶金学の発展に不可欠な経験となりました。帰国後、その豊富な知識と経験を活かし、明治27年（1894年）には東京帝国大学工科大学の教授に就任し、日本の最高学府で冶金学の研究と教育を主導する立場となりました。さらに、明治32年（1899年）には工学博士の学位を取得し、専門家としての地位を確固たるものにしました。

東京帝国大学を明治42年（1909年）に退官した後も、的場中は日本の工業教育の発展に対する情熱を失いませんでした。彼は九州工業大学の前身である私立明治専門学校の校長および教授として迎えられ、教育現場の最前線に立ち続けました。この時期には、並行して九州帝国大学工科大学の講師も務めるなど、活動の幅を広げました。大正3年（1914年）には、長年の功績が認められ、東京帝国大学名誉教授の称号を授与されました。大正10年（1921年）4月に明治専門学校が官立に移管された後も引き続き校長の職を務め、同年7月に教育の現場から完全に身を引きました。

的場中の教育者、研究者としての生涯は、日本の近代工業の基盤を築く上で極めて重要な役割を果たしました。彼の指導のもと、多くの人材が育成され、日本の冶金学および鉱山学の進歩に貢献しました。墓所は東京都内の染井霊園にあります。

栄典

国家からの栄誉も受けており、明治27年（1894年）10月30日には従七位に叙せられています。

著書

専門分野における著作としては、明治36年（1903年）に丸善から出版された『通気論』が知られています。これは、当時の冶金学における重要な研究成果をまとめた一冊であり、後世の研究者にとっても貴重な文献となりました。

参考文献

* 井関九郎 著『大日本博士録 第五巻』発展社, 1930年

もう一度検索