盛以弘

盛以弘（せい いこう）は、明代末期の官僚であり、その生涯は官界での昇進と政争に翻弄されたものでした。字（あざな）は子寛（しかん）といい、本貫は潼関衛です。生年は不詳ですが、1629年に亡くなっています。

盛以弘は盛訥（せい とつ）の子として生まれました。1598年（万暦26年）、進士に及第し、翰林院庶吉士（しょきつじ）という、将来を嘱望される官僚の卵としてキャリアをスタートさせました。翰林院は、学術研究機関としての役割も担っており、ここで将来の官僚たちは研鑽を積みます。1600年（万暦28年）には翰林院検討（かんりんいんけんとう）に進み、着実に昇進を重ねました。

1611年（万暦39年）6月、盛以弘は左春坊左賛善（さしゅんぼうささんぜん）に任命されました。左春坊は皇太子の教育を担当する機関であり、左賛善はそこで太子を補佐する役職です。1613年（万暦41年）11月には、左庶子（さしょし）・兼翰林院侍読（かんりんいんじとく）に転じました。左庶子は皇太子の側近として仕え、翰林院侍読は学術的な知識をもって皇太子を教育する役割です。

1616年（万暦44年）8月、盛以弘は国子祭酒（こくしさいしゅ）という、最高学府である国子監の長官に任じられました。国子祭酒は、国家の人材育成を担う重要な役職です。1618年（万暦46年）5月には、少詹事（しょうせんじ）となりました。少詹事は皇太子の補佐官であり、皇太子の日常的な活動をサポートする役目です。さらに、同年6月には、『玉牒（ぎょくちょう）』と呼ばれる皇族の系譜を編纂する業務にも携わっています。

1621年（天啓元年）、盛以弘は吏部左侍郎（りぶさじろう）に転じました。吏部は官吏の人事を担当する重要な部署であり、左侍郎はその次官にあたります。1623年（天啓3年）2月には、礼部尚書（れいぶしょうしょ）という、礼儀や祭祀を司る礼部の長官に任命されました。礼部尚書は、六部と呼ばれる中央官庁の長官の中でも特に重要な役職の一つです。

しかし、盛以弘の順風満帆なキャリアは、ここで暗転します。1623年5月、病を理由に致仕（ちし）し、故郷に帰りました。しかし、これは表向きの理由で、実際は当時権勢を誇っていた宦官の魏忠賢（ぎ ちゅうけん）によって職を剥奪されたと考えられています。魏忠賢は専横を極め、多くの官僚が彼によって失脚させられました。

1628年（崇禎元年）8月、魏忠賢が失脚した後、盛以弘は協理詹事府（きょうりせんじふ）として官界に復帰しました。詹事府は皇太子の教育を担当する機関であり、協理詹事府はその運営を補佐する役職です。1629年（崇禎2年）、盛以弘は在官のまま亡くなりました。その死後、1630年（崇禎3年）6月には、太子太保（たいしタイホ）の位を追贈されました。太子太保は、皇太子の教育を担当した官僚に贈られる名誉職です。

盛以弘は、その生涯で『紫気亭集（しきていしゅう）』12巻と『鳳毛館帖（ほうもうかんじょう）』4巻の著書を残しました。これらの著作は、彼の学識と文才を示すものです。彼の生涯は、明朝末期の政治の混乱と官僚の栄枯盛衰を象徴していると言えるでしょう。

盛以弘は、官僚としての能力だけでなく、学識も備えた人物でした。彼のキャリアは、明朝末期の激動の時代を生き抜いた官僚の一つの典型を示しています。

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