盤庚

盤庚（ばんこう）は、古代中国の殷王朝における第19代の王であり、陽甲（ようこう）の弟にあたります。彼の治世については、数々の史料や考古学的発見から、その実像が徐々に明らかになってきています。

特に重要な発見として、董作賓（とうさくひん）による卜辞（ぼくじ）の研究があります。卜辞とは、亀の甲羅や獣の骨に刻まれた古代の文字であり、殷王朝の社会や文化を知る上で貴重な資料です。董作賓の研究により、盤庚の治世26年目にあたる年の3月に月食が記録されていたことが判明しました。この月食は、天文学的な計算によって紀元前1373年3月27日の出来事と特定されています。

さらに興味深いのは、この月食が殷墟（いんきょ）のある安陽（あんよう）では観測されず、地方からの報告によって記録されたという点です。この事実は、当時の殷王朝の支配領域がかなり広範囲に及んでいたことを示唆しています。つまり、盤庚の時代には、中央の王朝が地方の出来事を把握し、記録するだけの統治能力を持っていたと考えられます。

史書における盤庚の記述も重要です。『竹書紀年（ちくしょきねん）』によれば、盤庚は殷王朝が滅亡するまでの最後の首都となる殷（現在の河南省安陽市）に遷都したとされています。一方、『史記（しき）』では、盤庚は黄河を南に渡り、殷王朝の始祖である成湯（せいとう）の故地である亳（はく）に遷都したと記されています。

遷都は、国家の命運を左右する重大な出来事であり、民衆にとっては大きな負担となるものでした。殷王朝は、成湯の時代から盤庚の時代までに5回も遷都を繰り返しており、民衆の間には不満が鬱積していました。しかし、盤庚は成湯の時代の善政を復興させるのだと主張し、反対を押し切って遷都を断行しました。

盤庚は、言葉だけでなく、実際に成湯の時代の善政を復興させました。その結果、殷王朝の勢いは再び強くなり、盤庚は名君として歴史に名を残すことになったのです。盤庚の治世は、殷王朝の中興の祖として称えられることが多く、彼のリーダーシップと改革の精神は、後世に大きな影響を与えました。

盤庚に関する研究は、殷王朝の歴史や文化を理解する上で不可欠です。卜辞の解読や史書の分析を通じて、盤庚の時代がより鮮明に浮かび上がってきています。彼の行った遷都や善政の復興は、単なる出来事ではなく、殷王朝の命運を左右する重要な転換点であったと言えるでしょう。

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