目隠しチェスとは？意味をやさしく解説

目隠しチェスの世界

目隠しチェスとは、プレイヤーが実際のチェス盤を見ることなく、頭の中で盤面と駒の配置を記憶し、対局を行うチェスの形式です。この高度な技術は、長きにわたり驚異的な能力とみなされてきましたが、現代では複数の対局を同時に行うプレイヤーも存在します。駒の動きは、棋譜を符号で伝えることで対局が進行します。この記事では、目隠しチェスの歴史、記録、心理学的側面、そして現代の動向について詳しく解説します。

目隠しチェスの初期の歴史

目隠しチェスの起源は非常に古く、チェスの歴史の初期から存在していたと考えられています。中東では、7世紀のサイード・イブン・ジュバイルが最初に行ったという記録があります。ヨーロッパでは、実力差のある相手とのハンディキャップや、卓越した能力を示す手段として用いられました。

歴史家のハロルド・マレーは、著書『チェスの歴史』の中で、中央アジアの2人が馬に乗りながら、盤と駒を使わずにチェスをしていたという記述を紹介しています。ヨーロッパでの最初の目隠しチェスの記録は、1266年にフィレンツェで行われたものです。1783年には、フランスのフランソワ＝アンドレ・ダニカン・フィリドールが3人を相手に同時目隠しチェスを行い、その様子が新聞で報道されました。フィリドールは、不眠の際に頭の中で盤面をイメージすることで、独りで目隠しチェスができるようになったと言われています。

1858年には、ポール・モーフィーがパリで当時最強とされた8人のプレイヤーと目隠しチェスのエキシビションを行い、6勝2引き分けという圧倒的な成績を収めました。その他、初期の目隠しチェスの名手としては、ルイス・パウルセン、ジョゼフ・ブラックバーン（最大16人同時対局）、そして初代世界チャンピオンのヴィルヘルム・シュタイニッツ（1867年に6人と同時対局）などが挙げられます。

20世紀の目隠しチェス

20世紀に入ると、目隠しチェスの記録はさらに伸びていきました。1900年、ハリー・ピルズベリーがフィラデルフィアで20人を相手に同時目隠しチェスを行いました。また、ピルズベリーは、目隠しチェス15試合と目隠しチェッカー15試合を同時に行うという驚異的な記録も達成しています（目隠しチェッカーの同時対局記録は28試合）。その後、チェコスロバキアのリカルド・レティとロシアの世界チャンピオン、アレクサンドル・アレヒンが記録を大きく更新しました。

1924年、アレヒンはニューヨークでアイザック・カシュダンやハーマン・ステイナーを含む26人の強豪と同時目隠しチェスを行い、16勝5敗5引き分けという成績を収めました。これは、目隠しチェスのエキシビションの中でも特にレベルの高いものとされています。翌年にはパリで、28チーム（1チーム4人）を相手に22勝3敗3引き分けという結果を残しました。また同年、レティはサンパウロで29人との対局を行い、記録を更新しました。

1934年7月16日、アレヒンはシカゴで32人との同時目隠しチェスを行い、19勝4敗9引き分けという世界記録を樹立しました。このイベントでは、エドワード・ラスカーが審判を務めました。20世紀の後半において、一般的に知られていた記録は、1937年にジョージ・コルタノウスキーがエディンバラで13時間かけて34試合を同時に行ったもので、24勝10敗という成績でした。この記録はギネス世界記録にも掲載されています。

その後、ミゲル・ナイドルフとヤーノシュ・フレシュが記録更新を主張しましたが、コルタノウスキーの記録のような厳格な監視体制がなかったため、ギネスには認められませんでした。ナイドルフは、ロサリオで40人との対局で36勝3敗1引き分けの成績を収め、後にサンパウロで45人との対局で39勝2敗4引き分けに記録を伸ばしました。しかし、ナイドルフは棋譜を見ることができ、対局者が複数いたとされています。

フレシュは1960年にブダペストで52人との対局で31勝18敗3引き分けという記録を主張しましたが、試合中に口頭で棋譜を確認することが許されており、また、対局時間が短かったため、これも記録として認められていません。コルタノウスキーは、このような条件であれば100試合でも可能だと主張しました。

1960年には、コルタノウスキーがサンフランシスコで1手10秒の目隠しチェスを56人と連続で行い、9時間で50勝6敗という驚異的な記録を残しました。

21世紀の記録と健康への懸念

2010年には、ドイツのマルク・ラングが35人との対局で23時間かけて19勝3敗13引き分けという欧州新記録を達成しました。さらに翌年、ラングは46人を相手に25勝2敗19引き分けで世界記録を更新しました。2016年には、ティムール・ガレーエフがフィットネスバイクに乗りながら48人と対局し、35勝6敗7引き分けという記録を樹立しました。

目隠しチェスは、競技能力を高めるトレーニング方法として推奨されてきましたが、1930年にはソ連で健康被害の懸念から同時目隠しチェスのエキシビションが禁止されました。ミハイル・ボトヴィニクも目隠しチェスに警鐘を鳴らしており、通常よりも疲労感が増すことが報告されています。

目隠しチェスの心理学

目隠しチェスは、高度な視覚空間能力と記憶力を必要とするため、心理学の研究対象として注目されています。1893年のアルフレッド・ビネーの研究を皮切りに、1965年のルーベン・ファインの研究、そして近年の多数の科学論文で心理学的な実験が行われています。これらの研究は、目隠しチェスには、チェスプレイヤーが後天的に獲得した知識と、心の中で視覚的な操作を行う能力が不可欠であることを示しています。

近年の動向

近年では、目隠しチェスの大会が年間を通して開催されています。特に有名なのは、2011年までモンテカルロで開催されていたアンバー・チェストーナメントです。ウラジーミル・クラムニク、ヴィスワナータン・アーナンド、アレクセイ・シロフ、アレクサンドル・モロゼヴィッチらは、特に目隠しチェスを得意とする名手として知られており、1996年から2007年の間、交互にアンバー・チェストーナメントで優勝しています。その後は、レヴォン・アロニアンが3度優勝しており、2012年のスポーツアコードワールドマインドゲームズでも優勝を果たしています。

2009年には、エリオット・ハーストとジョン・ノットが著した『Blindfold Chess, History, Psychology, Techniques, Champions, World Records and Important Games』が、フレッド・クレーマー年間最優秀チェス書籍賞を受賞しました。

参考文献

- Wall, Bill; Gerald Wall (2010年9月). “White Knight Review - Nobel Prize Winners and Chess” (PDF) (英語). BILL WALL'S CHESS PAGE.

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