盲学校及聾唖学校令

盲学校及聾唖学校令（もうがっこうおよびろうあがっこうれい）は、近代日本において視覚障害者および聴覚・言語障害者のための教育を行う学校、すなわち盲学校と聾唖学校に関する制度を定めた重要な勅令です。

歴史的背景と制定

日本の近代教育制度において、盲教育や聾唖教育の必要性は早くから認識されていましたが、当初は十分な位置づけがありませんでした。明治23年に公布された第二次小学校令において初めて「盲唖学校」という言葉が勅令に登場しましたが、この時点では小学校に準ずる扱いにとどまっていました。小学校教育の普及が進むにつれて、盲教育・聾教育もまた、その質の向上と普及が強く求められるようになります。

小学校に準じた既存の枠組みでは、盲唖学校が必要とする独自の教育内容や運営体制に対応しきれないことが明らかになり、盲教育・聾教育に携わる関係者たちから、盲唖学校単独の法令を制定するよう国に対して請願が繰り返されました。これを受けて、文部省は盲唖学校の教育制度を確立するための法令制定の準備を進め、1923年（大正12年）8月28日に「盲学校及聾唖学校令」として公布されました。そして、翌1924年（大正13年）4月1日よりこの勅令は施行されました。

この法令の制定は、盲学校および聾唖学校が日本の学校教育制度の中で独立した学校種別としての地位を確立する画期的な出来事でした。これにより、これらの学校は教育内容や運営に関する独自の基準を持つことが可能になり、その後の教育体制の整備と急速な発展に大きく寄与しました。

法令の主な内容

盲学校及聾唖学校令は全10条と附則から構成され、盲学校および聾唖学校に関する様々な規定を設けました。その主な内容は以下の通りです。

目的: 盲学校は盲人に対して、聾唖学校は聾唖者に対して普通教育を行うとともに、彼らの自立した生活に必要な特別な知識や技能を授けることをその目的としました。
設置義務と設置主体: 道府県に対して盲学校および聾唖学校の設置が義務付けられました。設置者は道府県といった公立のみならず、国（官立）や市町村、さらに私人（私立）による設置も認められました。
設置に関する特例: 道府県が直ちに学校を設置することが困難な場合、当分の間、文部大臣の認可を得て他の公立または私立の学校を道府県立学校の代わりとすることができました。また、設置がさらに困難な場合は、法令施行後7年間に限り設置を延期することも許容されました。
小学校への併置: 当分の措置として、小学校に盲学校または聾唖学校の学科を併設することも認められており、その場合は盲学校または聾唖学校と見なされました。
設置・廃止の認可: 公立・私立に関わらず、学校の設置または廃止には文部大臣の認可が必要とされました。
課程: 原則として初等部と中等部の設置が規定されましたが、特別な事情がある場合はどちらか一方のみの設置も可能でした。さらに、予科、研究科、別科を設けることも許されました。
文部大臣の権限: 法令において、文部大臣が定めるべき事項が細かく規定されました。官立学校については、修業年限、入学資格、学科・学科目とその程度、予科・研究科・別科に関する規程などが文部大臣の権限とされました。一方、公立・私立学校については、設置・廃止、修業年限、入学資格、学科・学科目・程度、予科・研究科・別科に加え、教員資格、編成、設備に関する規程なども文部大臣が定めることとされました。
教科書: 公立および私立学校で使用する教科書は、学校長が定めた上で、地方長官の認可を得る必要がありました。
* 入学料・授業料: 公立学校の初等部および予科は無償とされました。それ以外の課程で入学料や授業料を徴収する場合は、公立学校は地方長官が、私立学校は設立者がそれぞれ文部大臣の認可を得てその額を定めることとされました。

廃止

盲学校及聾唖学校令は、日本の教育制度が大きく再編された戦後の1947年（昭和22年）4月1日、学校教育法の施行に伴い廃止されました。その後、盲学校、聾学校、養護学校はそれぞれ独立した学校種別として位置づけられ、さらには特別支援学校制度へと発展していくことになります。

この法令は、日本の障害児教育史において、盲学校・聾唖学校が独立した教育機関としての基盤を築き、その後の発展を促進する上で非常に重要な役割を果たしました。

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