学校令

学校令(がっこうれい)



学校令とは


学校令とは、明治時代以降の日本において、先行する教育令に代わって制定され、最終的には第二次世界大戦後学校教育法が公布されるまで存続した「旧制」の学校体系や公教育のあり方を定めた一連の勅令の総称です。この総称は「諸学校令」(しょがっこうれい)とも呼ばれます。

狭義には、1886年明治19年)3月2日から4月10日にかけて公布された以下の5つの勅令(単行勅令)を指します。

帝国大学
師範学校
小学校
中学校
諸学校通則

広義には、これら最初の5勅令以降、1947年昭和22年)3月に学校教育法が公布されるまでの期間に随時公布・施行された、様々な学校種別に関する単行勅令全体を指します。学制や教育令が単一の法令であったのに対し、学校令は特定の名称を持つ一つの法令ではなく、複数の勅令の集合体である点が特徴です。

制定の背景と経緯



近代日本の学校制度は、1872年明治5年)の学制、そしてそれに代わる1879年明治12年)の教育令によって始まりました。当初は単一の法令で包括的に学校制度を規定していましたが、教育制度の急速な拡大と発展に伴い、教育令は短期間に複数回改正されるに至り、より柔軟な新たな法体系の必要性が認識されました。

こうした状況下、初代文部大臣に就任した森有礼は、国家の将来を見据えた教育改革を目指しました。彼は教育に強力な国家目的を反映させるべきだと考え、特に教員養成(師範教育)を重視しました。また、単一の法令では社会の変化に対応しきれないと考え、学校種別ごとに個別の勅令を制定していく方式を採用しました。

この方針に基づき、1886年明治19年)に前述の帝国大学令、師範学校令、小学校令、中学校令、諸学校通則が順次公布されました。これにより、既存の教育令は廃止され、教育に対する国家の関与・支配がより一層強化されました。森はこれらの5勅令に続き、さらなる学校令の制定を構想していましたが、1889年の暗殺によりその計画は中断されました。

その後の展開と改正



森有礼の死後も、学校令体系は時代に合わせて整備・拡充が進められました。各勅令は部分的な改正や全面的な改正を経て、また新たな法令の追加公布によって体系化されていきました。

明治後期: 地方自治制度の確立を受けて小学校令が全面改正され、義務教育の運営が明確化されました。中学校制度から独立した高等学校令、女子教育を定めた高等女学校令、職業教育を担う実業学校令、そして私立学校全般を規律する私立学校令が公布されました。また、高等教育機関として帝国大学に次ぐ専門学校令が制定され、多様な専門教育機関が整備されました。これらの整備により、明治30年代にはいわゆる「旧制」の教育・学校体系の骨格が完成しました。

* 大正昭和戦前期: 大正期には大学令が公布され、帝国大学以外の官立単科大学公立大学、私立大学の設立が認められるなど、高等教育が拡充されました。また、それまで公教育の枠外にあった就学前教育(幼稚園令)や障害者教育(盲学校及聾唖学校令)が初めて制度化されました。昭和期に入り戦時色が強まると、青年学校令が制定されて中等教育に進まない勤労青年への教育が制度化され、太平洋戦争中の1943年には中学校高等女学校実業学校を包括する中等学校令が公布されるなど、戦時体制に対応した教育改革が進められました。師範学校も官立化・昇格しましたが、戦局悪化により1945年には戦時教育令が施行され、学校教育は停止状態となりました。

学校教育法による廃止



第二次世界大戦後、連合国軍総司令部(GHQ)主導による「教育の民主化」が推進される中で、日本の教育制度は抜本的な改革を迎えます。1947年昭和22年)3月に学校教育法が公布され、大学から幼稚園に至るまでのすべての学校制度が包括的に再編成されることとなりました。

これにより、旧来の学校令に基づく教育・学校体系はその役目を終え、関連する諸勅令は順次廃止され、新しい「新制」の教育・学校制度が発足しました。

歴史的評価



学校令をはじめとする旧制の教育法規が、大日本帝国憲法に「教育」に関する明確な規定がなかったことから、主に勅令や行政命令の形式で定められていたことは、当時の教育行政が国家主導・行政主導的であった特徴を示すものと評価されています。また、学校種別ごとに個別の法令が定められたことで、制度全体の構造や学校間の関係性が複雑化し、問題となる側面もありました。

こうした背景から、戦後の「教育民主化」においては、国家による過度の支配を排除・最小化するとともに、制度全体を一貫した体系として規定する法律の必要性が高まり、学校教育法の制定へとつながりました。学校令は、近代日本における公教育制度の基盤を築きつつも、その形式と内容において戦後の教育改革の方向性を示す一因ともなったのです。

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